男の痰壺

映画の感想中心です

銀河鉄道の父

★★★ 2023年5月1日(日) MOVIXあまがさき1

大して見たくもなかったのだが見た。

 

死後にしか評価を得られなかった画家・作曲家・小説家とかはしばしば映画のモチーフになる。彼らは食うや食わずの貧乏人生で世間から置き去られた孤独な生涯を終えるのだが、それに対して死後の作品評価の燦然たる輝き。観客は惨めな彼らを見ても、心配すなーあんた死んだあと作品は立派に評価されまっせーと半ば安心・納得して見てられるという寸法である。

ても、おんなじように不遇の生涯を経て作品も全く評価されない人が圧倒的に多いんですけどね。まあ、そういう人たちにも今のネット社会は一定程度の承認要求は充してくれる。それが良いのか悪いのかはわかりませんけど。

 

宮沢賢治とはどんな人だったのか。一言でいうとアカンタレだった。瞬時の思いつきにのめり込んですぐ飽きて投げ出す。腹立ちます。まあ、若いときはそんなもんなんですけど。

でも、そのまま何も為せず消えてしまっても仕方ない彼に、妹の死病(結核)という事態が降りかかる。この映画、銀河鉄道の父と役所広司をフィーチャーしてるが、妹が彼の人生のキーパーソンであった。傑物です。演じる森七菜を俺は「ラストレター」の妹役くらいしか知らなかったけど存在自体の圧がある点で清原果那レベル。

 

賢治は死が迫る妹に聞かせる為だけに必死で物語を紡ぐ。「風の又三郎」とか「銀河鉄道の夜」とか宮沢童話の大半はここで形を成されたのでしょう、多分。だから妹が死んでしまってからは抜け殻みたいになって、親父が「今後は俺がお前の一番の読者になる」と言ってもなんだか薄ぼんやりしたまま彼もまた結核になって生涯を終えるのであった。

そういう意味で本作は構造上の最佳境が中盤で過ぎてしまう点でどうしても弱い。父と題しているが妹が鮮烈すぎて持っていかれた感が拭えないのです。

死期の迫った賢治のメモ帳から「雨ニモマケズ」の走り書きを発見した父が危篤の枕元で全文を朗する。ここは役所広司の裂帛の気合いもありさすがに訴えるもんがありました。

 

思いつきにのめり込んですぐ諦めるといったアカンタレを覚醒させたのは妹の病であった。森七菜がこの傑物を内的な圧を携えて好演してる。佳境が中盤で過ぎてしまうのは構成上問題だが「雨ニモマケズ」での1点突破を役所の裂帛の気合いで凌ぎ切った。(cinemascape)

 

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