男の痰壺

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アルマゲドン・タイム ある日々の肖像

★★★ 2023年5月17日(水) TOHOシネマズ梅田4

映画が始まってすぐ、アレっと思うのは画面の薄暗さで、名匠ダリウス・コンジの撮影はアレンやハネケの作品を見る限りそこまでローキーではない筈である。本作はジェームズ・グレイが自身の80年代を苦渋とともに描いた半自伝的映画で、彼にとって少年期は決して光り輝くものではなかった。

 

一言でいえば、友だちを切って棄てたことへの懺悔の思いが本作の基底となっている。そこには人種や貧富といった今で言う分断の隔壁があるのだが、そういう社会的な圧に対して抗う術なんてないし、だいたい少年とは移り気なもんなのである。でも、大人になって、ああ、あのときあんなに仲良かったあいつとあんなことがあったよな、なんてちょっと胸がシクシクくるような感傷とともに思い出したりする。そういう映画。

 

おそらく、ハッタリめいた脚色や大風呂敷広げる虚飾もない極めて真摯に自分の過去と向き合った作品なのだろう。ジェームズ・グレイのその生真面目さは「アド・アストラ」みたいなハッタリ映画だと、アッチョンプリケな底なしドテンに至るのだが、本作ではひたすらに沈殿に向かうのみである。

 

映画的虚飾やハッタリのない少年期への身の丈レベルな苦渋であり、誰しもが1つ2つは持つ似たような思い出。歓喜に縁取られた輝かしい少年時代ではなくジェームズ・グレイのそれは薄暗く燻っている。真摯な記憶の述懐とは思うが振り切れなくもどかしい。(cinemascape)

 

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