男の痰壺

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ゴダールの決別

★★★★ 2023年7月13日(木) シネヌーヴォ

見てから半月以上経ってしまってどんな内容かももはや記憶に覚束ない。最近、この作品について書いてた人がいて、それ読んであーそんな話やったんかと今更思ったり。

 

とにかくこの映画、ゴダール史上ツカミのカッコよさが頭抜けている。とある村にそこで起こった奇譚を調べにジャーナリストが訪れる。彼のモノローグ。「私の祖父は森に行き火を焚いて祈ったら願いが叶った、親父は森に行ったが火を焚くのを知らず祈っただけだが願いは叶った、でも私は森の場所も知らず火の焚き方も知らずただ祈るだけ。」

この、警句めいた述懐が後々意味を為すかと言えば何もない、多分。ハッタリだろう。レマン湖のほとりに佇む男から奥を航くフェリーを追ってカメラが横移動する、前景に計算され配置された人を縫って。久々に見たゴダールらしい移動撮影はマジ素晴らしい。

 

まあ、後は覚えてません。奇譚っていうのがドパルデュー演じる男に神ゼウスが憑依して云々らしいのだが、驚くほどに記憶に残っていない。ジャーナリストがあっちこっち行って取材する件はなんとなく覚えてるんですが。女子大生の旅行者のスカートめくってみたり、村の男たちと石投げしたりみたいな。このへんなんだかロメールめいております。

 

ゴダールから政治的衝動や文芸知識の架装を取り去ったら何が残るのか。若い頃はイジケ野郎の素顔だったものが、歳食って枯れてインポテンツな性欲になった。実に正直な男であった。

 

入れ子細工の中身に関して訴求するものを持たぬが側の調査員絡みはゴダール作品中稀有なケレン。レマン湖畔で奥のフェリーを追っての移動撮影は空気の透明度も相まり天上界の風景めいてる。調査の顛末の停滞感と不如意な様はロメールのようでもある。(cinemascape)

 

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