男の痰壺

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落下の解剖学

★★★★ 2024年2月25日(日) MOVIXあまがさき4

カンヌでパルムドールってことで何か斬新なアイデアが呈されたのか思ったらそういうことではなかった。物語の構造はオーソドックスといっていい。それを2時間半かけてじっくり丹念に描いている。

 

【以下ネタバレです】

夫が家の2階から転落して死ぬ。で、妻が疑われる。裁判の中で夫婦のこれまでのいろいろな軋轢が明らかになる。要は売れっ子作家の妻に対して芽の出ない作家志望の夫の、髪結の亭主よろしく主夫業に甘んじることができない普遍的な抑圧が背景にある。持てる者と持たざる者の「神は何故あのバカ小僧に才能を与え給うたか」のサリエリの嘆きもか。

ってなことがわかってくるのです。とこんなん延々書いても仕方ないので、結論はパルムドッグ賞納得の犬の名演すんばらしい。

 

まあ、状況証拠は妻による殺害を示唆していくわけなのだが、映画はそう言う風には結論づけない。真実は闇の中。2人の息子である少年にチャイルドシッターのおばさんが言う。「真実がわからなければ、あなたが決めなさい」このほとんどそれまでの展開の中でキャプチャーされてこなかったおばさんにこの決定的な台詞を言わせるのが引っかかるし、まだ幼い少年にそれを理解して大向こうを欺く度量があるのか?って思う。ってか彼はもしかして真実を言ってるのか?とも。

いずれにしても、お父ちゃんが死んで、そのうえお母ちゃんが刑務所行ってまうより、彼にとって望ましい結論だった。そう考えるとお父ちゃんかわいそうです。

 

逆『アマデウス』と言える過去の内実が明らかになる後半の法廷で裁定の行方を決める子供の証言がチャイルドシッターおばさんの何気ない一言で確定される運命の非蓋然性。全ては霧の中に葬られ限りない親父の悲哀が残滓のように宙空を漂う。透明な空気の中で。(cinemascape)

 

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