男の痰壺

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家へ帰ろう

★★★★ 2019年1月5日(土) シネリーブル梅田1
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冒頭、民族臭の濃い室内のダンスシーンにまず魅せられる。
屋根の上のバイオリン弾き」がちょっと思い浮かんだりしたが、このタイトルバックは次のシーンには連関しない。
 
アルゼンチンに住む老人が、子供たちに老人ホームに入れられそうになって逃げだす。
で、欧州1人旅…ってことで「ハリーとトント」みたいなのかと思ったが、全然違った。
切実味が違うのであるが、それはおいおい明らかになる。
 
アルゼンチン→スペイン→フランス→ドイツ→ポーランド
という行程なのだが、しょっぱなのスペインのシークェンスが良い。
宿屋の女主人と飛行機で知り合った若者が関わるのだが、ベタつかない人情とでも言うか、人と人の関わりに対して過度な幻想は抱かず、だがそれでも信じれる関わりってのはあるんだぜって謳っているみたい。
このスペインで、けんか別れしている娘に会うのだが、この件に少しひっかかった。
物語の成り行きで、こういう帰結はわかるのだが、もうちょっと何とかならんかたろうかって思った。
 
まあ、しかし、そういう触れ合いのロードムービーとして稀にみる完成度かもって気がした。
ここまでは。
 
話がフランスに及んで、本来の語るべきことが流れに棹をさしてくる。
それにつれて、過去の回想がカットバックされる。
冒頭のダンスのシーンも意味が明らかになる。
物語は、語るべきことに向けて収斂されていくのだ。
 
ナチスユダヤ人虐殺。
それは、もちろん語り継ぐべき非道。
であるが、結局そこかよ感が禁じえなかった。
何か巨大なモチーフが収縮してしまった気がする。
 
ドイツ通過の列車内でドイツ語の会話ばかりに囲まれて忌わしい過去がフラッシュバックする。
そういった描写は切実で痛ましい。
 
南米からスペインに至るまで主人公に絡む家族を含めた他者が各々の背景を滲ませて尚彼を斟酌するあたりにロードムービーの醍醐味があるのだが、大戦時の過去がインサートされ目的が顕わになるにつれ世界は収縮する。災禍を乗り越えた未来は閉ざされたままに。(cinemascape)