「30秒もかかりません」
オペ前日、麻酔科の医師に落ちるのにかかる時間を聞いて半信半疑であった。
俺は疑り深いのだ。催眠術とか絶対かからない自信がある。でも、それが今回かえって不安。麻酔かからんかったらどうなるねん。
声も出せず身体も動かせないなか、意識と痛覚だけが覚醒した状態で外科手術を施される。
ああ、頼むから昏睡しろ、俺。
って不安なんか10秒で粉砕されました。
昼1時にオペ室に入り、瞬く間に落とされた俺は2時間眠らされてる間に体を切り裂かれ、病室に戻ったあと何度か朦朧状態で着替えとかさせられ、船酔いみたいな麻酔酔いを解消する点滴注入されて、たゆたうような半覚醒状態が6時間。
夜の9時。脳細胞の奥底からゆっくりとなにかが浮上するように意識が戻る。
き、来たー!
再生した!
ニューヴァージョンの俺を見やがれ、世界!
ひとり盛り上がる俺であったが。
痛っ、痛いがなあ…,。
手を見やる。リストカットしたかのような傷がセロテープのようなもんで留められてあった。
こ、これだけ?あの手術やって、こんな簡単な処置?
何故かマインドは急速に盛り下がる。
布団に包まって再びの眠りについた。
そして新たな夜明けを迎える。
雨の切間から奇跡のように射し込む曙光に向かって祈りを捧げる。
せめて、今後の人生、なんかええことありますようにと。