男の痰壺

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ボストン物語

★★★★★ 2021年2月14日(日) プラネットスタジオプラス1

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ボストンがどういう都市なのか何にも知らなかったが、アメリカで最古の都市なんだそうで、ボストン人らは、そういう歴史や伝統を重んじ、新興の成り上がりニューヨーク人が嫌い。

そういう背景がドラマを転がす。

 

そんなボストンでも上流階級の一族。家長のロナルド・コールマンは、当たり前だが働きなんかしない。毎日、寄り合いに出るとか散歩するとかばっか。やれ、どこぞの新興企業の看板が景観を損ねてけしからんとか、腹の黄色い鳥を見たぞいとか、まあ、どうでもいいこと言ってお暮らしになっている。

 

でも、そんな彼に頭を悩ます難問が発生。

息子と娘が、あろうことかあのニューヨーク人と結婚したいと言い出した。

ここからの展開が怒涛である。もう本当に素晴らしい。「ものすごい振れ幅」とT氏が言ったんだがその通りで、付け加えるなら、ワンサイドの価値観に収斂しない鷹揚なものの見方とでも言いますか。

先鋭化する価値観が抜き差しならない対立に行きついてしまう今の世の中へのアンチテーゼであると思いました。

 

言うなればこれは、ロナルド・コールマンの当主が旧弊な価値基準を改めていく物語なのであり、そういう意味で素晴らしいシーンが幾つもある。

息子の結婚を認めるつもりになった彼が、相手の娘の父親をボストンに呼ぶ。上流階級の社交倶楽部で呑んでかかろうとして、予想外に結婚に反対される。うまくいくわけないと。2人のことをちゃんと理解していたのは相手の親父なのであった。

結局、その娘と別れて元サヤの従妹と結婚することになった息子。その彼女は当家のバーさんが着た由緒あるウェディングドレスを着せられそうになる。おとなしい彼女は従うけど本当はイヤなのであった。でコールマンは彼女をニューヨークの最新の店に連れて行ってドレスを選ばせる。大喜びの彼女。嗚呼、男としての至福とは息子の嫁が喜ぶ顔を見ることなんだなあ。吾輩もそうせねばと心戒めるのであった。

この後、店を出たところで別れさせた妹の彼氏と遭遇、コールマンは悪様に旧態な考えを罵倒される。しかし、これは至福の結末へと連結していきます。

 

篇中で、当時のボストン出身の思想家エマーソンの考えを主人公は何度か引用する。曰く彼も最初は先鋭で認める者は少数であったと。そして未だ少数の支持しかなかったフロイドの著書を手にとるようになる。性意識に基づいた彼の思想はおそらく旧来の知識層ではバッタもん扱いだったんだろう。

プラネットで今度ジョン・ヒューストンの「フロイド」をかけるので絡めたんやなと思ったら「全くの偶然」だそうです。

 

古い価値観を改めるが新しいものも何でも良いわけではない。息子と娘の結婚をめぐって右往左往させられるコールマンが何が正しいかを見極めていく様が隘路を通って光明に辿り着くよう。息子の許嫁を伴ってのNY行暗転から至福の終局へ澱みない畳みかけ。(cinemascape)

 

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