男の痰壺

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ワン・プラス・ワン

★★★★ 2021年12月6日(月) なんばパークスシネマ1

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1967年の「ウィークエンド」撮影後、商業映画との決別を宣言したゴダールは、1979年の「勝手に逃げろ/人生」で商業映画復帰をするまでの12年間、ジガ・ヴェルトフ集団名義で訳のわからん政治的オナニー映画を撮り続ける。

俺は学生時代に奇跡的に「東風」を「ウィークエンド」の併映で映画館で見たが、それ以降ジガ・ヴェルトフ集団の映画を上映してるのを見たことがない。そりゃそうだ、だってつまんないんだもん。

その中で、この映画は唯一何度か上映されてるみたいで、それは、後にも先にもストーンズの貴重な「悪魔を憐れむ歌」スタジオレコーディング風景を収めているから。今回はチャーリー・ワッツの逝去にともなう追悼上映みたいです。しかもシネコンで見ました。

 

見て驚いた。そもそもゴダールストーンズに何の興味も持ってなかったと思われる。なんでもジョン・レノンをキリスト役に見立てた映画を撮りたくてアメリカに行ったがブッチされて、仕方なくロンドンでストーンズが撮ってもいいって言ってまっせで4日間スタジオでフィルムを回した程度のもんじゃなかろか。が、所詮大した代物でもなかろうとの予想のはるか上行く撮れ高です。

これは恐らく、ロンドンで雇用した新人カメラマン、アンソニーリッチモンドストーンズへの理解と撮影技量の賜物であろう。この人は、この後「レット・イット・ビー」の撮影を担当し、ニコラス・ローグの主要作などを手掛ける。本作でも緩やかな移動でスタジオ内をなめていくカメラが存在感抜群で対象であるストーンズの面々の内実と伍している。

 

まあ、2時間の上映時間のうちストーンズは半分で、あとは3つの挿話が交互に出てきます。

ブラックパンサーもどきの連中が武器を用意したり白人女を捕まえてぶち殺したりする話。

ヒトラーに傾倒する本屋店主が客にハイルヒトラーをさせる話。

アンヌ・ヴィアゼムスキーがふらふらしながら取材されてる話。

で、当然どれも面白くありません。ストーンズとも「悪魔を憐れむ歌」の歌詞とも連関なさそう。

 

とどのつまり、ストーンズだけでいいやんって話だが、しかし、世界が同時革命へのマスヒステリーに彩られた時代の証左として、時代のトップアイコン2者のブッキングは、もろもろの史実を知るにつけ、たまらないロマンティシズムを放っているとも思えてくるのです。

 

似非な破壊と狂気と革命ロマンティシズムの3題噺とリアルなストーンズのレコーディングという相容れぬ喰い合わせの悪さだが世界同時革命への時代の幻影が映画を政治的に統御する。リッチモンドの緩やかな移動もゴダール映画の刻印を表して十全。(cinemascape)

 

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