男の痰壺

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犬も食わねどチャーリーは笑う

★★★★ 2022年9月24日(土) TOHOシネマズ梅田9

「夫婦喧嘩は犬も食わない」って俺は永らく当人たちにしかわからないパーソナルなしょもない事情やからほっとけみたいな意味と解釈してたけど、調べたらどうせ仲直りするからほっとけって意味らしいですね。でも、永久に仲直りしない夫婦も多いんじゃなかろか。

 

市井昌秀のオリジナル脚本で、個人的な経験も反映されてるんでしょう。ノホホンとしたコメディ基調ではあるが、随所で微妙に辛辣でイタい。

【以下ネタバレです】

夫が家事とか育児をやってくれないとか、トイレ洗面所使ったあと汚いとか、自分に都合悪いとすぐ怒鳴るとか、浮気するとか。

「旦那デスノート」って創作じゃなくて本当にあるんやね、読んでるうち数分で体調不良になってやめましたが、そういう聞き書きのネタじゃなく、この映画で夫婦の亀裂を決定づける出来事って姑絡みなんです。

実にセンシティブなネタで、ぶっちゃけ何でそれで嫁はんキレるんか男にはわからんであろう。俺にはわからんかった。わからんことを市井が創作できるわけないから、多分リアルな体験なんでしょうな。

ド本気の覚悟を感じました。

 

展開の巧さを随所で感じた。冒頭のエピソードから端折って一気に7年後のテロップで現在形に進捗する。現在から始めてたら凡庸でダレてたと思う。終盤のクライマックス、香取が岸井の勤務するオフィスに乗り込む件は、真正直にやるとちょっとなーなのだが搦め手からの眞島攻撃で躱して、2段構成の佳境へ突入する。

こういうのはセンスだと思います。

 

岸井ゆきのは前作「神は見返りを求める」でも感じだが、女の2面性のスイッチが切り替わる瞬間を表出するのに長けていると思います。主演女優賞候補じゃないでしょうか。

香取も前作「凪待ち」に続くダメ男だが、彼の図体のデカさという特質が可笑しみから哀しみに転化していく。若い頃の陽キャラでなく、こういう資質を見出し抽出した白石や市井はわかってると思う。

 

不均衡な描法は影を潜めたが展開が半歩ずらされて非凡さは維持される。旦那デスノート的な汎用ネタの流用ではなく決定的破綻に至るのは彼女の尊厳の失墜というパーソナルな展開は攻めている。ゆきののスイッチが入る瞬間怖い。このほろ苦さは身に染みる。(cinemascape)

 

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