男の痰壺

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ザ・ハント

★★★★ 2020年11月13日(金) TOHOシネマズ梅田10

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トランプがクソミソに言って上映を差し止めようとしたらしいが、どうもよくわからない。

だって、これは、リベラルのクソ富裕層が12人の貧困保守(?)を拉致って殺戮を楽しむ映画で、言うなれば反トランプの主流を占めるような層がとんでもないゲスどもとして描かれているからだ。

 

【以下ネタバレです】

映画の評価ポイントは2つある。

1つは、ジャンル映画としての趣向やアイデアがどれだけ新しいかだが、かなり良いと思います。序盤、リレー方式で次々と餌食となる展開が映画の思い込みマターを逆手に取った構成である点で、その意外性の連鎖が何奴が主役やねんのサスペンスを醸成する。あんまり知らん役者ばかりなのも効いてます。

 

2つ目は、先述のポリティカルな視座の導入で、監督はどちらに与するものでもないと言ってるようだが、それは建前であろう。ガソリンスタンドのシークェンス。殺る側の2人が温暖化や食の糖質などに言及しながら殺戮を繰り広げるのが作り手の悪意のスタンスを表出する。ちなみに俺は、その悪意に同意するんですけどね。

 

ただ、この映画、リベラル富裕層VS保守貧困といった定形的な帰結には至らない。

観賞後に俺の頭に「ドッグヴィル」がかすめた。あれは、村人たちが慎ましく暮らす炭鉱町に流れ着いた女が、一見善良な彼らの奥底のエゴや欺瞞や細やかな悪意に触れ、秘匿していた圧倒的なパワーバランスを露にして彼らを皆殺しにする。

この映画もリベラルだの保守だのどうでもいいとばかりに全てを無に帰する爽快感がある。

沈没船から引き上げられた1本25万ドルのシャンパンがプロローグとクライマックスで富裕層により言及されるが、それを無造作にラッパ飲みしてみせる。いい落とし所だと思います。

 

固定観念のドテン返しが執拗に連鎖する序盤の掉尾に登場する得体の知れない奴。その本性の見えなさの表現が突出する。映画は狩るゲスをリベラル富裕層に規定するが全てをひっくり返す帰結からすれば瑣末なこと。机上の論理がリアリズムに駆逐される一気飲み。(cinemascape)

 

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