★★★★★ 11月27日(日) プラネットプラスワン
アルドリッチの中でもあまり言及されない作品だし役者陣も地味である。大して期待せずに見たのだが、驚いたことに傑作だった。
ギャング団に拉致された少女が一味の若者と心を通わせるようになる。っていうとストックホルム症候群始祖の趣きで、そういうのに俺は今更興味の持ちようもない。
そういう題材を前にしてマエストロ・アルドリッチの演出は2つの点で特異性を加味する。
①振り切れまくったキャラ群
②メリハリ効きまくりのカメラ使い
で、この2点の冴え渡りかたが尋常じゃない。
大俯瞰で荒野をやってきた車がドライブインで止まる冒頭から、男たちのギラついた顔のアップが適宜挿入される店内までを見て、もうのっけからアドレナリンが噴出する思いでした。
冗談言い合いながらバカ笑いしつつ、人殺すことに些かも躊躇しない。こういう世界観はタランティーノがより意識的に継承する。
クラブで歌う酒場女のコニー・スティーヴンスの特異なフィーチャーはリンチによって先鋭化されるだろう。
多くの90年代に開花するアメリカ映画の先鋭的なるものがニューシネマ真っ盛りの70年代初頭に徒花の如くベテラン監督の手で紛れ込んでいたことに俺は映画史の深淵を感じずにはいられないのです。
大俯瞰の冒頭からダイナー内でのアップ繋ぎに至るレンズ使いの緩急が全篇随所で炸裂する。強弱振り切ったキャラ群がストックホルムな凡主線を傍から複層化する。ニューシネマの残滓を呑んだ徒花はアルドリッチの底意地でどす黒いまでの燐光を放っている。(cinemascape)