男の痰壺

映画の感想中心です

こんにちは、母さん

★★★★ 2023年9月2日(土) MOVIXあまがさき5

「たのむよー、母さん」「しょうがない、母さんの出番だね」

と、予告篇で使われてるやりとりなのだが、もうちょっと頼まれるに甲斐ある内容なのかと思っていた。しかも、これが映画のクライマックスなのである。でも、しみじみとその大して何もないことが沁みる枯淡の域を山田洋次の映画に見出すようになったことに感慨を覚えた。良い点・ダメな点含めて山田洋次の映画ってものが終局に近づいているように思えます。

 

大泉はとある大会社の人事部長ってことなのだが、仕事と言えば書類にハンコ押してる様が描かれる。あーせめてパソコンでメールしてるとかにならんのかいと思う。悩みと言えば人員整理でクビ切るのが辛いと新味のカケラもないお話で、この会社絡みの部分は総じて形骸的。

大泉の旧友で同僚である男にクドカンをキャストしているのだが、何だかドロドロした情念を出しそうになると寸止めされるという毎度のパターン。今までも永瀬や浅野といったキレることができる役者を登用して尚、否応なく山田世界に呑み込んでしまうのはなんやろか、多分ご自身でも閉じた世界ではあかんとの思いはあるんでしょう。今回、このクドカンと永野芽衣との2人芝居の場が1シーンだけあるのだが、そういう意味でちょっとドキドキしました。

 

思いが募り感情が堰き止め切れなくダダ漏れてしまう。山田の得意中の得意な描写で、「口笛を吹く寅次郎」の駅シーンや「遥かなる山の呼び声」の最後の車中などが最高到達点として記憶されるが、今回もそのライトバージョンが施される。

でも、人の営為ってのは、そういうクライマックスの瞬間のあともずーっと続いていくんです。それが、「しょうがない、母さんの出番だね」へと収斂される。素直にいいなーと思いました。

 

山田十八番の女の堰き止め切れぬ思いの発露を経て、辿り着いた境地が母としてのささやかな日常の悦びに回帰するあたり、分断された家族の再構築を謳っているよう。それが年寄りの繰り言だとしても聞いとこ思わせる枯淡の味わい。ズレてるとこもあるけど。(cinemascape)

 

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