男の痰壺

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カンダハル 突破せよ

★★★★ 2023年10月21日(土) Tジョイ梅田5

ジェラルド・バトラーのアクション映画と高を括って見たのだが、中東の混沌を背景にしたことで、ハマスによるイスラエル攻撃に端を発した紛争が混迷の様相を呈する今、期せずしてナウな時事性を表出している。

 

バトラーはCIAの工作員でイランに潜入して核施設の爆破に成功する。だから、イランの特殊警察に追われるのは当然なのだが、ISの軍情報局も捕獲に乗り出す。この追うものが複層的なのが混迷を弥増させる。

各々の追手は各1人の男をピックアップするが、イランの隊長の冷徹さの一方での女房思いである点や、ISの追跡者が長老たちに首切る動画を流す時代じゃないと諭すシーンなど、追う側のキャラの描き込みが厚みをもたらす。イランやタリバン、ISなどを極悪非道の原理主義者ですませない平衡感覚をもっていると思いました。

 

核施設の爆破にしても、007の時代なら潜入して爆弾しかける、なんでしょうが、離れた場所の地中の通信回線に器具をしかけてアメリカのCIA本部から爆破誘導する。こんなことが本当なら原発への爆破テロなんか簡単に起こりそう。でも、そう思わせる時代感覚がある。

 

バトラーに帯同するアフガニスタン人の通訳、CIAの内部告発情報を得てネットニュースで流すフリーの女性ジャーナリストなど、外枠をも十全に描き込んで臥薪嘗胆な底浅を感じさせない。ただ、ラストの帰結は、ああやっぱバトラーのアクション映画だもんねなんですが。

 

バトラーのマッチョな活劇としての迎合側面はあるにしても、追う側のイスラム原理主義勢力を単なる妄信的な「悪」としてではなく血の通った人格として描こうとする試みが拝金主義な独立部族などと綾為して中東の混沌を表出する。意外なまでの平衡感覚。(cinemascape)

 

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