男の痰壺

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イニシェリン島の精霊

★★★★★ 2023年2月日(月) TOHOシネマズ梅田6

人間は日々自分の考えに忠実に生きているわけではない。そんなのくだらねーなあとか思いつつ社会関係というもんがあるから我慢したり、仕事とかでもそんなこと無駄やしやってられねーわとか思いつつ給料もらってるんやからしゃーないわなということで流されたり。

本作は、ある日を境にそんなやりたくないことは今後しないと決めた男がいて、そうすることでどーなるのかをシュミレートしたものだ。

 

その男の親友だと思ってるもう1人の男がいて「お前と過ごす時間はムダだからもう付き合わない」と宣言されて戸惑う。最初は戸惑ってるだけだが、やがて両者の確執はエスカレートしてのっぴきならない状況を迎える。

本作が秀でてるのは、戸惑う男を取り巻く周辺人物たちの分厚さで、特に彼の姉と警官の息子の2人の顛末は男の孤独感を弥増させていく。

 

スリー・ビルボード」以来5年ぶりとなるマーティン・マクドナー作品だが、極端な状況を設定して振り切れた人物群が転がっていく展開は通底している。

 

アイルランドの孤島が舞台で、海の向こうの本土ではときたま硝煙が上がったりする。この紛争と隣接した平穏の刹那感は物語の迎える結末と地続きなのだろう。その肌感覚は平穏な国に暮らす我々には想像もつかないものかもしれない。

 

人間関係の曖昧を取っ払ったときにどうなるかの単線的試行だが、周辺群像の遣る瀬なさが否応なく男の孤独を弥増させ状況の坩堝化を加速させる。海の向こうで時折上がる硝煙は紛争との地続き感を呼び覚ますだろう。周到な配置・装置で炙り出された解なき時代。(cinemascape)

 

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