男の痰壺

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春画先生

★★★★★ 2023年10月19日(木) 大阪ステーションシティシネマ

春画にさほど興味がないし主演女優も知らない方なので食指は動かなかった。敢えて言うなら監督の塩田明彦に多少、くらいなもんでしたけど見てよかった。どうせ、持ち込まれ企画なんだろうと思ってたら原作も塩田なんですね。春画に対して並々ならぬ造詣と情熱を燃やしてらっしゃるようで、それは余人には理解しがたい情熱なんですけど、本気度漲る本作の出来見ると何はともあれ良かったねと言いたくなります。

 

茶店で働く弓子という女性に春画先生が「一度うちに来なさい」と言う。迷った末に訪れた彼女は春画の魅力に魅入られる。

この導入は北香那扮する彼女のどこが先生のお気に召したのか、あるいは春画のしゅの字も知らなかった彼女が何で春画に魅入られたのかサッパリなのだが、折しも喫茶店のシーンで起こる地震によって何かが決定的にベクトルを変えてしまったことが表現されている。巧いと思いました。

 

以降、春画のみならず、その道の権威である先生に弓子は惹かれていくのであった、とまあ規定の展開で、そこに先生の死んだ妻の双子の姉が現れての3角関係と、なんだか太宰とかの昭和文学を思わせる今際のエロスと可笑しみの様相を帯びてくる。根岸吉太郎ヴィヨンの妻」や石井岳龍蜜のあわれ」とかの系譜に並ぶ成功作だと思います。

 

役者もみんな良かった。北香那は最初はどうかと思ったがどんどん存在感が増してくる。女優の誕生ってのを久々に見た思いです。

 

警戒は瞬時に尊敬に追従はやがて先導にという関係性の逆転が女優北香那の胆力の発現過程と同期するような錯覚のエクスタシー。幽界からの使者めいた安達祐実との三角対峙は昭和文学の黴た芳香を放つ。全ては地震による胎動の萌芽から始まるのも納得。(cinemascape)

 

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