男の痰壺

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愛にイナズマ

★★★★★ 2023年11月8日(水) シネリーブル梅田2

業界あるある話→イナズマのような出会い頭の恋→母親失踪の謎→家族の再生・再構築と話がどんどん転げていくのだが、石井裕也ノリにノッて脚本書いたんやろなと思わせる圧巻の勢いがあります。まあ、終盤の家族絡みの話は当初から想定にあったんでしょうが、前半の全く読めない展開には久々に物語の流れに身を委ねる快感を感じました。

 

【以下ネタバレです】

個人で映画を撮っていた主人公がチャンスを掴んで1500万の予算の企画を撮ることになる。しかし、お仲間内の自主映画と違って、プロの製作者、スタッフ、役者とかを御していかないといけない世界では、どうしてもプレゼン能力が問われる。そして多数を納得させるプレゼンの為には自分でも訳わからんけど面白いとか胸打つとか戦慄するとかイケてるとかの説明不可能なものが片っ端から削がれていって、結果ノッペラボーのクソ面白くもない代物に成り下がってしまう。と長々と書いちゃいましたが、この件は石井裕也の実体験からくる積年の恨みつらみの表出だろう。だからオモロい。

 

主人公は窪田正孝の理解不能な男を街で見かける。見てみろ、理解不能な奴はやっぱいるんだよ、であるが、その男の「上手いこと世間と付き合う」ことの出来なさと、裏表のない心情の衒いない表出が彼女の心を捉え始める。この窪田演じる男は、そういう言及はないがおそらくアスペルガーの設定だろう。横浜聡子ウルトラミラクルラブストーリー」以来の肯定的表現だが、この窪田の在り様が前段の世間体とかお仲間のコモンセンス大事の飼い慣らされた通念をぶっとばす。

 

石井裕也は「ぼくたちの家族」でも、家族というもの、わけても子供たちから見た親というもの、彼らに対する思い、或いは兄弟という消せない絆を描いて成功していたが、今回は家族外の他者である窪田が参入することにより風通しが良くなった。そのおかげで全体を通底するオフビートな可笑し味が損なわれることなく一貫している。また、それを形成する5人のコラボレーションも完璧だった。松岡茉優は「勝手にふるえてろ」に並ぶ代表作を得たといっていいだろう。

 

理屈つかないことが現実にはあるというモチーフがきれいに回収できたとも思えぬが回収する必要もないというのもこの世の中の現実だし物語は流れに任されて転げていく。それが圧巻。きれいごとの屁理屈は隠された誠意や真実や正義や愛の稲妻にぶっ飛ばされろ。(cinemascape)

 

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