男の痰壺

映画の感想中心です

海潮音

★★★★ 2018年9月2日(日) シネヌーヴォ

決して完成度が高いとは言えないし描き込み不足も往々にしてあるが、それでも面白かった。
橋浦方人の商業映画2作目なのであるが、それでこういう一種ビスコンティ紛いのバロックな崩壊劇をオリジナルで作ろうとした意気を良しとしたい。
ゴツゴツとした話法で、こなれてるとは言えないが、真摯で逃げがないと思った。
 
石川県の旧家を舞台とするが、そのロケセットらしい実際の家が素晴らしい。
門の外は日本海
玄関から門までつづく小路を見下ろす母屋の2階がいい。
そこには常に池部良が窓辺に立って階下を睥睨する。
玄関から居間に至る段差がいい。
立体的で優れて映画的だ。
 
まあ、いろいろ難点は多い。
曰くありげで登場した山口果林は、やられ放しかいなとか。
池部良の中盤からのエロ親爺への変貌が唐突すぎて、ちょっとは伏線うっとけやとか。
泉谷しげるの伯父も、なんか尻尾巻いて逃げるだけで存在感ねえーっとか。
 
しかし、そういう弱点を補ってお釣りがくる存在感を荻野目慶子が放つ。
これ見て彼女が本当に天才であったことを再認識したわ。
その後のキャリアを考えるともったいないっす。
 
風土に根差した家父長制度の崩壊が侵入者により齎される文学的バロックを志向した意気は買うが舌足らずで生硬。だが効果音としての和製ポップスと旧家屋のトリッキーで余りに映画的な構造といったアンビバレンツが混在し荻野目の天才がそれらを突き通す。(cinemascape)