※おもひでのしずく:以前書いたYahoo日記の再掲載です。
Happy Birthday 俺
昨日は俺の誕生日だった。
その事実に気づいたのは夕刻。
4月26日と日報に打ち込んで「あっ…」っと気づいた。
44回目の誕生日。
「ふっ…皆黙ってやがって、俺を驚かそうという魂胆か? 仕方あるまい、早目に家に帰ってやるか…」
「ちわーっす!」
「えっ…Sさん…何しに来はったんですか」
「いやあ、近く廻ってまして、思い出して寄らしてもろたんですわ」
「何思い出したん」
「何って、例の…」
「例の…ああ…」
俺は営業マンのSに金を支払った。
事情があって裏取引で出来高回してもらったの忘れてた。
「どないです?最近」
「仕事はぼちぼち…そんなんより何かひたすらにしんどいんやけど」
「どないしはりましたん、ポリープ取ってスッキリしはったんちゃいまんの」
「人ですよ人、また足りなくなっちまったんよ」
用済んだらとっとと帰れ…思い続けること1時間延々Sさんの相手をして俺は帰路に着いた。
「待っとれよ皆、悪かった、遅くなってすまんな」
俺の脳裏には一幕の映像が去来する。
「ママ、ケーキ食べたらだめ?」
「だめ!パパが帰って来るまで待ちなさい」
「はーい」
「いい?パパが帰って来たらどう言うの?」
「うん、パパお誕生日おめでとうございます。いつも僕たちのためにお仕事ご苦労様です」
「そうよ、よくできたわ」
家族への愛しさに満ち溢れ、にわかに溢れ出した涙を拭うこともなく、俺は家へとたどり着いた。
階段を駆け上がり、家のドアを開ける。
「ただい…」
暗い。そして、静かだ。
「ふふふ…まさか、あいつら、映画のシーンみたいにサプライズパーティとシャレこみやがったか?…俺が部屋に入るとクラッカーで歓迎かよ、参ったな、一応驚いてやるか」
俺は部屋に入った。
女房も子供も布団も敷かずにグースカ寝ていた。
そして、食卓の上には
…シャケとポテトサラダが置いてあった。
完全に忘れ去られていた。
そして、今ひとりごつ…
「Happy Birthday 俺」
「Welcome 44回目の変わり映えしない人生」
「ちょっとは何か良くなってくれよ、頼むから」