男の痰壺

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1917 命をかけた伝令

★★★★★ 2020年2月18日(火) 大阪ステーションシティシネマ

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やたらワンカットを押し付ける予告篇をみて鬱陶しく感じていたので、あんまり良くない予断をもっていた。

でも、どやろか、アカデミー賞にそんなに関心があるわけじゃないが、「パラサイト」とこれをどっちが1等賞かって聞かれたら俺は「1917」って言います。だいたい、今回の「パラサイト」騒動ですが、そりゃ非英語映画の初作品賞受賞がアジアの韓国だったってんでいきなり後頭部を小突かれたような衝撃だったのだが、たぶんあれやね、今回主要な演技賞に黒人がゼロやったんで何年か前の批判の嵐の記憶がバランサーのように働いたんでしょう。作品賞で帳尻合わせまひょかってなもんやと思う。いや、「パラサイト」も傑作やと思ってるんで他意はないんですが。

 

この映画、勇壮な部分が全く皆無で、それは作り手としてけっこう勇気がいる点で、それを2時間もたせるためにとった手がワンカットなんでしょう。まあ、当然にどっかでカット割ってCGとかで巧妙に繋いでるんやろが、最初はどこで誤魔化しとんねんとかヒネた思いでみていたが、物語に没入してそんなん意識から消えてました。

近年、ワンカットを売りにした映画で「バードマン」ってのがあって、あれも良作でしたが、それでもワンカットの無理感はあった。でも、今回は確かに必然であり言うなれば映画成立の要件とさえ思われる。

 

戦場の修羅場を描いた映画はいっぱいあるんだが、これは、第一次大戦が舞台ってことで、何かしらんけどロシア映画みたいな匂いがする。「僕の村は戦場だった」とか「誓いの休暇」とか「人間の条件」とかで、そういったテイストが新鮮で、それを担保する美術が圧倒的で驚く。敵が敗走した敵地に残された死体や兵器の残骸の物量が凄い。

 

終盤で占領下のフランスのある街にたどりつくのだが、それまでの泥と緑の世界から戦火で燃える赤の基調で計算された世界は最果て感を弥増させる。それで、激流での逃避を経て再び森にたどり着き安息の森での歌声。

この映画、概ねシーン設計の転調の鮮やかさがとんでもない。おそらく綿密な事前設計をしたうえで現場に臨まないとできない仕事。撮影監督のロジャー・ディーキンスが主線で仕切らないとできなかった作品だと思われます。

 

まあ、ストーリー的には走れメロス的な間一髪間に合ってよかったねですんじゃうわけだが、それでこそ映画たらしめようという創意が働いて何かが付加される。これは、最大限にその何かが付加されて昇華された結実だと思う。

 

否応無しの出立から瞬く間に孤立無援の無限彷徨に叩き込まれる。ワンカット縛りは状況が希求する枷だと思う。シーン毎の色彩設計が秀でる撮影もだが、文字通りの死屍累々を現出させた美術が特筆。難事を乗り越え語らずの故郷を思う。彼の中の何かが変わった。(cinemascape)

 

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