男の痰壺

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ぼくの小さな恋人たち

★★★★★ 2023年8月28日(月) シネリーブル梅田2

世評高い「ママと娼婦」を見てないので、どういう流れでこの傑作が出てきたのかわからんが、ジャン・ユスターシュ長篇2作目にして遺作となった本作は、確立された文体を持って尚、瑞々しさに溢れているという驚くべき達成。ある種の到達点の趣さえあります。

 

中3の少年が卒業して進学させてもらえず働かないといけない。その数年間を、幾つものエピソードを連ねて淡々と綴ったものだが、劇伴は一切ない。そして、エピソードの締めは須くフェードアウトで閉じられる。この語り口が少年の内面に情緒的に踏み込むのを回避させ、考えてみればメッチャ気の毒な少年の境遇を観客は同一線上で見守ることになる。でも「気の毒」なんてのは大人が後付けで解釈することで、当の少年はそんなこと考えないもんだ。日々是勝負だし正念場なので考えてるヒマはない。

 

少年時代の10年間はものすごく長かったように感じるのに30、40過ぎると瞬く間に時間が経つ。そう感じるのは経験値が低い間は毎日が新鮮で、新しい刺激の繰り返しだからなんです。そして、そういう切り口を持った映画を初めて見たような気がする。まあ、初めてってのはオーバーだが、先述した語り口が相まって際立った印象を与える。

 

印象的なエピソードばかりに思えたが、よくよく考えると大したことは起こっていない。それは、観る者が少年の世界に完全に同期させられているから印象的になる。アルメンドロスの包み込むような撮影が寄与したことは言うまでもない。

 

エピソードが連なり編年記を為すが、劇伴なしの溶暗締めを繰り返すことで情緒的であることを廃して見る者は同一地平に誘われる。悦びや哀しみやときめきや怒りや不安や畏れが来たりて過ぎる少年期の走馬灯。アルメンドロスの採光と移動が全てを刻印する。(cinemascape)

 

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