★★★★ 2023年10月2日(月) シネヌーヴォX
某映画サイトで去年のベストに挙げてる方がいたので気になっていた。まあ、なんだか個人的な事情・心情が評価に影響してるみたいですけど。映画の評価なんてそんなもんだ。
中国人の兄弟が福岡の柳川に行って何日間か過ごすという話です。なんで柳川?ってのは序盤で明らかになるのだが、まあ、観光地としてそれなりに有名ではあるが、めっちゃ人気とも言えない鄙びた風情が、このミニマムに閉じた世界に適合している。
【以下ネタバレです】
冒頭で弟が末期癌と診断されたと述懐するシーンがある。そのあと、彼は兄貴と飲んで柳川への旅行に誘うのだが、癌の話は言わないし、映画も殊更に彼が痛みに耐えるシーンとかは挟まない。見てる間、観客もそのこと忘れてしまうくらいに触れない。大体に冒頭シーンからしてオフビートな外し方をしているので深刻味は回避されている。
誘われた兄は、おっさん2人でそんなとこ行って何がオモロいんやと全く乗ってこない。でも、次のシーンでは柳川駅でタクシーに乗る2人が出てくる。要は昔、兄弟が惚れてた女が柳川にいるのであった。
女が歌手として勤めるバーに行って再会して、あとは男2人と女1人という映画の黄金比率でグタグタの数日間。結局、何もないままに中国へ帰る。
この映画の美点の1つは撮影で、夜間、人気のない町をそぞろ歩く3人の閉じた世界が移動で捉えられる様は、アングル・サイズ・光量が良く、大したドラマが発生してないのにドラマラス。空気を写すってのはこういうのを言うんだと思う。
エピローグ的に数ヶ月後の顛末が配置されている。オフビートななーんにも無さで綴られてきた物語は、ここにきて狙った何かを呈示しようとする。その無常は少なからず胸を打つ。
2人が泊まる民泊の主で池松壮亮、飲み屋の女将で中野良子が出てる。どちらともこの映画の世界に馴染んでると思いました。
柳川の鄙びた風情がミニマムに閉じた世界に適合。夜間、人気のない町をそぞろ歩く3人を移動で捉える撮影は大したドラマが発生せずとも空気を写しだす。だがオフビートな無為で綴られてきた物語は最後に狙った何かを呈示しようとする。その無常へ切なる思い。(cinemascape)