男の痰壺

映画の感想中心です

ジュリアン

★★★★ 2019年2月2日(土) シネリーブル梅田2
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【ネタバレです】
 
どうにも売り方が、ミスリードを誘ってよくないと思う。
「ジュリアン」という子供の名前のタイトルと子供の泣き顔のポスターからは、どうしたって虐待の映画を連想する。
おりしもクソ親による小4女児虐待死の非道が連日報道されている。
正直、見る気になれなかったが、時間が合うのがこれしかなかったので見た。
 
結論から言うと、ジュリアンはDVのメインターゲットではなくって、あくまでその母親。
DV男の生態が、ああ…たぶんやっぱりそんなんなんだろな。
っていうリアリティがある。
通常は普通人であるのだが、スイッチが入って切れるのが早い。
こういう野郎ってのは、おそらくすさまじいまでに自己愛にまみれていると相場は決まっている。
 
新鋭監督らしいが筆致はダルデンヌ兄弟を思わせる。
極力、カメラも音楽も過剰な修飾を避けて淡々と映画はすすむ。
説明的要素も極端に排される。
長女が妊娠を検査キットで知る女子トイレのシーンなんてトイレのドア下を固定で撮った1ショットのみ。
 
ただ、この映画がちょっとあんまり見たことないと思わせるのは、そういうダルデンヌ調が終盤で急旋回する点。
これは、けっこう勇気が要ることだと思うのだ。
下手うてば商業主義に堕したと思われかねない。
その際どい隘路を神業的に通り抜けていると思う。
 
自己愛塗れが帰着するDVのリアリズムと崩壊した家族のそれでも真摯に希求する平穏が容易には得られない現実を冷徹だが思いやりをこめて描くダルデンヌ調。それが過剰な展開に舵を切る終盤は思い余った怒りが噴出する作者の良心の叫びと断罪ともとれる。(cinemascape)