★★★★ 2024年10月12日(土) 大阪ステーションシティシネマ7
長い道のりを経て兵員輸送列車のドアが開くとそこは地獄の戦場であった。主人公はその混乱の渦中に間髪おかず巻き込まれていく。ってのはまんま「プライベート・ライアン」の上陸艇からノルマンディーの地獄の海岸に至る冒頭の焼き直しみたい。ちなみに本作は「プライベート〜」から3年後の作品である。そういう多少の鼻白み感はあるものの、それでも見応えはあった。
主人公の狙撃兵ジュード・ロウを起点にして2つの関係軸が形成される。政治将校ジョセフ・ファインズと市民軍の女兵士レイチェル・ワイズとのものが1つ、もう1つがドイツ軍の将校エド・ハリスと少年サーシャとのものであるが、それぞれがコクのあるエピソードを包含しているし、レイチェルとハリスが得も言われぬ良さなので平板さを免れている。
兵士達がぎゅう詰めで寝てる宿舎にレイチェルが入ってきてジュード・ロウを探して体を合わせる。明日をも知れない命が人間の性本能を刺激するという切ないまでの切迫したラブシーン。「仁義なき戦い」の文太「あとがないんじゃーあとがー」の焦燥が頭を過ぎる。
少年からソビエト軍の情報を得ていたエド・ハリスが逆にドイツ側の情報が敵側に漏れてたと知るエピソード。哀しげに戦禍の廃墟の中を歩く2人。その帰結は後に衝撃と詠嘆を伴い明らかにされます。
ジュードとエド、狙撃手同志の個の対立に収斂される展開の建て付けもシンプルで強度がある。一方でボブ・ホプキンスとロン・パールマンが非常に印象的な役で出てくる。世界を拡張させるに的確な置き石であった。
2番煎じと迎合を乗り越えて根源的な人の本能を発現する役者たちが煌めいている。ハリスの醒めた闘争心とレイチェルの刹那な性衝動はプリミティブにドラマの強度を高めた。外縁部に置かれたホプキンスとパールマンが又効果的な置き石なのだ。(cinemascape)