★★★★ 2019年9月6日(金) 大阪ステーションシティシネマ10
俺は、チャン・イーモウの熱心な鑑賞者ではない。
のだが、初期のころの「菊豆」、「紅夢」を見て、このおっさん形式主義に拘泥して早晩行き詰るわと思っていたら、「あの子を探して」でいきなりシネマヴェリテ風に作風を変えたので、相当に食えない野郎だとは思っている。
「妻への家路」では、駅の邂逅シーンでは「ジェイソン・ボーン」ばりの巧みな編集技巧を見せ瞠目した覚えもある。
これは、「HERO」や「LOVERS」に連なる武侠ものの流れを、またぞろ繰り出して、正直今更感が拭いがたい映画だ。
売りの傘を使った殺陣だが、あまりに非リアリズムすぎで漫画に堕す一歩手前とも思える。正直、関心しません。見栄えさえよければの驕りとも思える。
それでも、のっけからの豪奢なセット美術と衣裳や、ひたすらに「天気の子」ばりに降り止まぬ雨による水墨画めいた撮影には、映画屋のどハッタリズムが遺憾なく発揮される。
【以下ネタバレです】
題名がそうだからといって無理やり「影武者」につなげるのもあれだが、黒澤が意図して為しえなかったと思われる滅びの美学みたいなのが、後半に釣瓶うちに炸裂する。
もう、これでもかと言わんばかりに全員死んじゃいます。
この、思い切った厭世観は半端じゃない。ここで、1点加点しました。
ラスト、副臣的なポジションのワン・チェンユエンが見せる達成と疑義が綯い交ぜになった表情は「乱」の井川比佐志を彷彿とさせる。
影武者人生の悲哀や叶わぬ恋慕の切なさといったお決まりドラマトゥルギーが放逐され三者の自我が全開される終盤の怒涛のような流れが戦乱の世の非情を巧まざるも表出する。全てが朽ち果てた無常とそれでも生きる便を探り続ける女の強か。末世めいた雨の徹底。(cimemascape)