★★★★ 2017年6月24日(土) シネリーブル梅田3
冒頭、大がかりなアパート倒壊というハッタリがかまされる。
ただ、以後、そういうケレンは影を潜め、引越しの動機づけとしてしか機能しないのが弱い。
バランスを欠き、いらんかったんじゃないかと思う。
役者夫婦が主人公で、2人が出演している「セールスマンの死」の舞台稽古や上演場面に結構な尺が費やされる。
これも、有機的に物語構造とリンクしているかといえば、ちょっと消化不良な気がする。
ただ、そういう弱点を差し引いても、終局の3竦み的愁嘆場を現出させたドラマトゥルギーは圧倒的だ。
女房の煮え切らなさ。
タクシーでの理不尽ばばあの因縁。
生意気な生徒との軋轢。
友人との不和。
そういう日常の不穏が積み重なった末の帰結として澱みがない。
冒頭の倒壊騒動を機に遭遇する妻の事件だが彼女の煮え切らなさは夫の心理を抑圧して日常の不快や不穏や不信の連鎖交錯を誘発する。そういう理不尽の果てに行き着く終局の4竦みの愁嘆場のドラマトゥルギーこそ圧倒的で複層的。煙に巻かれた感はあるにしても。(cinemascape)