★★★★ 2019年1月13日(月) 大阪ステーションシティシネマ2
当初のマイケル・マンからジェームズ・マンゴールドに監督が交代したそうな。
どっちも傑作を撮ってることは撮ってるけど、ここんとこはロクなもんがない監督ってことに俺の中ではなっていて、でも敢えて言うならマンゴールドの方が好み。
難物だと思う。
だって、どうみたって巨大企業のフォードの方が横暴でビジネスライクであって、イタリアの弱小企業であるフェラーリの方が車作りに命を懸けた職人魂を大事にした集団みたい。
「フェラーリなんて年間売り上げ、うっとこの年間トイレットペーパー消費額と変わんねえんだぜ、ガハハ」とフォードの重役連はうぞぶくのだ。嫌な連中。
この設定で、フォード内で打倒フェラーリプロジェクト責任を負わされたのがマット・デイモンなのだ。
であるから、タイトルにあるフォード対フェラーリの凌ぎあい要素はあんまりない。ほぼ、内部確執のドラマで、個の突出した才能を消し去ろうとするバカ重役とデイモンの闘いである。それが、図式的なヒロイズムに堕さないのがいい。彼は企業人であるから偉いさんに押し込まれたら折れてしまう。そういうところが通り一遍の安いドラマになっていない。
一方で、60年代には未だあったであろう男のロマンティシズムが横溢している。裏切りに近いことを強いられて疎遠になってしまった男たちも、押し殺した思いを殴りあいで発散すれば双方ぶっ倒れて「よーしいっちょやっか」となる。
ジョン・フォードの世界が嫌味なく現出している。
クリスチャン・ベイルが1人息子を連れてサーキットに来る。レーサーにしか解らないだろう幻惑的な台詞を息子に言うのだが、この難プロットをマンゴールドは夕暮れの薄暮の中のマジックアワー一発撮りで決めてなんだか凄く良いシーンに昇華させている。
全体的には、流れは淡白のきらいはあるし、めちゃくちゃ派手なレースクラッシュがあるわけでもないが、良い映画だと思った。
已む無く信義則を踏み躙るデイモンと忸怩たる思いを押し殺すベイルのパターン反復でもポン友でいられたのは互いに裏表が無いからでマンゴールドは物語に確信的信頼をもって押し通す。殴り合いでの和解や薄暮の中の伝承といったベタさえ心地良い。(cinemascape)