男の痰壺

映画の感想中心です

完本 アンダー・サスピション (大河随想)

序に変えて

2003年に公開された「アンダー・サスピション」はジーン・ハックマン主演、モーガン・フリーマン、モ二カ・ベルッチ助演の映画であるが、見た人の記憶に残る映画ではなかった。しかし、それを見た俺は何かに憑依されたようにこの物語を描き続けたのである。

当初はYahoo日記に記され、後に当はてなブログのおもひでのしずくの中で再掲載した物語を今改めて一挙再掲載するのはひとえに他に書くことがないからである。

 

第1章 アンダー・サスピション

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1999年暮れ。とある居酒屋。
1人の男が暖簾を分けて入って来た。そして店内を見渡す。
「よおーっ!ここだよ」
カウンター席で1人の男ががなりたてた。男は鷹揚に近づくと横の席に腰掛けた。
「遅いじゃんかよ、モーガン
「場所がわかんなくてよ」
「おかげでカルピスサワー3杯飲んじまったじゃんかよ」
店員に向かって男は言った。
「俺にはジントニック…あっ梅入れてね」
「どういう趣味なんだよ」
「お前に言われたかねえよ、ジーン」
「しかし、7年ぶりかよ」
「そうよ、クリントの映画以来だぜ」
「あんときゃお互い苦労したよな」
「あいつの演技ときた日にゃあ、うんざりのワンパターンだろ…俺とあんたで盛り立ててやったからオスカー取れたんだぜ」
「まったくよ…監督賞だってんだからよお、笑わせてくれるよな」
「でも、あんた、その後で又ぞろ野郎の映画に出てたぜ…『目撃』だっけ」
「そうよ、やっこさん、俺のこともちいとは見直したみたいでよ、しつこい位に頼み込んできやがるんでよ…まあ、くだらねえ役だったけどよ」
「くだらなくても一応…大統領なんだからいいじゃねえかよ」
「あんたもやったじゃんかよ『ディープ・インパクト』でよ」
「そういやそうだったよな」
「考えてみりゃあ、俺達大統領同士じゃんかよ…オスカー俳優だしよ…すげえじゃんかよ」
「まあ、お互い世知辛いハリウッドでさあ、この歳でよく頑張ってるよな」
「どうよ…このへんでよ、実力者同士がっぷり四つでよ、1本やってみたくはねえかよ」
「いいよな…でもよ、助演ならまだしもよ、俺達みたいな爺い同士の出る映画なんて企画あるか?」
「ふっふっふ…これなんかどうよ」
男はシナリオのゲラをふところから取り出した。
『アンダー・サスピション』と」書かれていた。

ジーン・ハックマンモーガン・フリーマン主演による映画はこうして出来たのである。

 

第2章 その後のアンダー・サスピション

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2003年秋。とある回転寿司屋。
1人の男が自動ドアを開けて入って来た。そして店内を見渡す。
「よおーっ!ここだよ」
カウンター席で1人の男ががなりたてた。男は鷹揚に近づくと横の席に腰掛けた。
「遅いじゃんかよ、モーガン
「場所がわかんなくてよ」
「おかげでプッチンプリン3皿杯喰っちまったじゃんかよ」
回り続ける皿に暫し目を向け男はおもむろに1つの皿を手に取った。
「何なんだよ…そりゃあ」
「見てわかんねえかよ、ハンバーグ巻だよ」
「寿司屋でハンバーグたあ、どういう了見してんだよ…ガキじゃあるまいしよ」
「お前にだけは言われたかねえよ、ジーン」
「しかし、3年ぶりかよ」
「そうよ、例の映画以来だぜ」
「あんときゃお互い楽しかったよな」
「ああ、お前さんは楽しかったろうよ」
「どういう意味だよ」
「うまいこと話に乗せられてよ、金まで出させやがって…できあがってみりゃあ何のことはねえ、ありゃ、あんただけ目立ってる映画じゃねえか」
「そんなこたあねえぜ…お前さんも結構イカシてたじゃねえかよ」
「そうかよ、本当にそう思うか?」
「そうよ、当然じゃねえかよ」
「しかし、批評家さんには完全に黙殺されちまったよな」
「ほっとけよ、提灯持ちなんかよ」
「ああ、ほっとくよ…でもよ客にも黙殺されちまったんじゃあシャレにもならねえじゃんかよ」
「まあ、そんなに落ち込むなよ、なっ、俺たち2人とも大統領役者でオスカー俳優じゃねえかよ…シケた顔してねえで飲めよ、ヨオッ兄さん、こいつによお梅入りジントニック持ってきてやってくれよ、で俺にはカルピスサワーね…何?ないだと?てめえ俺のこと誰だと思ってるんだよ、大統領役者でオスカー俳優のジーン・ハックマンだぞ、えっ、知らねえ?なめてんのか?…上等だよ、表出やがれ…」

 

9月30日発売の「週刊芸能」より
「9月某日。かねてよりお忍び来日中の米俳優ジーン・ハックマンモーガン・フリーマンが都内某所の回転寿司屋で店員に因縁をつけ全治2週間の怪我を負わせた。更に同店の機器を著しく損壊し、傷害及び機器損壊で逮捕された。2人は事実を認め損害賠償にも応じたので2日の拘留後に米国に送還されたとのことだ。従業員A氏によると…」

 

第3章 日本絶滅

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幼稚園の送迎バスが騒ぎ立てる子供たちを乗せて去ったあと、主婦、四天王寺美香(41才)と主婦、鬼怒川恭子(28才)は一緒に帰途に着いた。
「昨日テレビ見た?」
「えっ…何をですか」
「病気の番組でやってたんだけど、今の子供って骨盤が退化してきてるんだって」
「退化…ですか」
「うん、骨盤がね、広がっちゃてて腸が下りてきてね、子宮が歪んじゃって妊娠しにくくなってるんだって」
「へえ、そうなんですか」
「大変なことなのよ、これ」
「そうなんですか」
「そうよ、鬼怒川さん、あなた知ってる?日本人の出生率
「さあ」
「今ね1.4なんですって…で、1.2を切ったら絶滅しちゃうんだって」
「絶滅しちゃうんですか」
「そうよ、絶滅よ…怖いわ」
「いつごろ?」
「…さあ、10年後かもしかしたら50年後…かしら」
「どうしましょう」
「わからないわ」
「…」
「ちょっといいですか?」
突然後ろから声がかかった。
「えっ!」
2人の男が立っていた。
「えっ…あなた達…まさか渡辺謙
「…とトム・クルーズ!」
「そうです、私は正真正銘の渡辺謙、そして、こちらはポン友のトム」
「どうして…こんなところに…」
「ふっふっふ…」

続く。

 

第4章 続・日本絶滅

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鬼怒川美香と四天王寺恭子は呆然と渡辺謙トム・クルーズと向き合っていた。
「ふっふっふ…聞くつもりは更々なかったんですが…」
「まあ…」
「では」
「ではって…ちょっと、見ましたよ『ラストサムライ』」
「ありがとう」
「…」
「では」
「ちょ…ちょっと待って下さい…私たちの家すぐ近くなんですよ。せっかくなんだから寄って行って下さいな」
「うむ…どうする?トム」
「OK!アイムOK」
「ふっふっふ…」
いきなり渡辺謙は下から睨み上げた視線を美香に向けた。強烈な眼光であった。
「あっ…ああ…」
へなへなと美香は尻餅をついたのだった。
「鬼怒川さん!大丈夫?」
「OK…ドンウォーリー」
美香を助け起こそうとした恭子の視線が何故かトム・クルーズの満面の笑顔と交差した。しかし、その眼は深い憂いを帯びていた。
「あっ…ああ…」
へなへなと恭子は尻餅をついたのだった。
そのときであった。
「お前ら何さらしとんじゃ!」
振り返った謙とトムの視線の先には…
ジーン・ハックマンモーガン・フリーマンが立っていた…。

当初の予定の展開にならないので

 

第5章 X-DAY ~三度のアンダー・サスピション~

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2004年2月某日。とある牛丼屋。
1人の男が自動ドアを開けて入って来た。そして店内を見渡す。
「よおーっ!ここだよ」
カウンター席で1人の男ががなりたてた。男は鷹揚に近づくと横の席に腰掛けた。
「遅いじゃんかよ、モーガン
「場所がわかんなくてよ」
「おかげで牛皿10皿喰っちまったじゃんかよ」
「兄さん、俺は特盛ね、ダブルで」
「何なんだよ…ダブルって」
「いいじゃんかよ。雰囲気だよ。でも、見てみなよ外、長蛇の列じゃあねえか」
「今日が最後だからな牛丼もよ…限定なんだってよ。なのにダブルったあどういう了見してんだよ」
「お前にだけは言われたかねえよ、ジーン」
「しかし、こないだは面白かったよな」
「ああ、トムとケン・ワタナベだろ…あいつらびびりまくって逃げて行きやがったな」
「格が違うってんだよ、オスカー俳優で大統領役者の俺たちの前じゃよ」
「でもよ、良かったよな…あのジャパニーズガール2人は」
「そうよ、なんてったってニッポンの女は最高だからよ。こういうのをニッポンの諺で漁夫の利ってんだよ。でな…相談ってのはよ、そろそろどうだ?2人でよ新しい企画ブチ上げようじゃねえか」
「何かあるのかよ」
「当然よ。ブームに便乗してニッポンで撮るのよ」
「3本立て続けに出たあとだからよ、今更って気もするぜ…」
「いや、まだいけるよ。現によ『メモリーズ・オブ・ゲイシャ』も再始動したって言うじゃんかよ」
「…」
「それが出来る前に撮っちまうのよ」
「…」
「『メモリーズ・オブ・ショーグン』」
「胡散臭すぎねえかよ」
「ショーグンは俺がするからな」
「むちゃ言うなよ。ショーグンってのは日本人じゃねえか。アメリカ人のお前にどうやってやれるんだよ」
「お前はテンノーの役やらしてやるよ」
「えっ…テンノーってショーグンとどっちが偉いんだ?」
「そりゃあテンノーにきまってるじゃねえかよ。どうだ」
「うむ…」

かくして新作『メモリーズ・オブ・ショーグン』は監督にフランシス・フォード・コッポラを迎えて始動した。

 

第6章 アンダー・サスピション vol.4

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2004年5月某日。とあるハンバーガーショップ
1人の男が自動ドアを開けて入って来た。そして店内を見渡す。
「よおーっ!ここだよ」
喫煙席で1人の男ががなりたてた。男は鷹揚に近づくと向かいの席に腰掛けた。
「遅いじゃんかよ、モーガン
「場所がわかんなくてよ」
「おかげでフィッシュマックディッパー50個喰っちまったじゃんかよ」
「いつから、魚党になったんだよ…お姉ちゃん、俺はダブルビッグマック、てりやき風味でな」
「そんなんあるのかよ…ビッグマックのダブルって」
「4段重ねじゃねえか、知らなかった?」
アメリカじゃ聞いたことねえよ」
「日本通ぶったってよ、ジーン、それじゃあ、まだまだだぜ」
「そういやあ、タイのマクドじゃよお、ドナルドおじさんが合掌してるって言うじゃねえか、ニッポンでも侍の格好でもさせればどうなんだよ、なあモーガン
「…」
「どうしたんだよ、急に黙りこくりやがって」
「いやなこと思い出しちまったじゃねえかよ、どうしてくれるんだよ『メモリーズ・オブ・ショーグン』…有り金全部はたいちまったじゃねえか」
「まさかよお、コッポラの野郎、あそこまで落ちぶれてやがるとは思ってもみなかったぜ。金、持ち逃げしやがるとはよ」
「ソフィアにナシつけてなんとかならねえのかよ」
「だめだあ…」
「えっ…」
「だめだめだあ…」
「…ジーン…お前大丈夫か」
「…ジョークじゃねえか」
「何のジョークかさっぱりわかんねえ…ところで何なんだよ話ってのは」
「起死回生の一撃」
「えっ」
「ふっふっふ、ゴジラ
「…今更ゴジラかあ」
「お前知らねえか…伝説の男ゴジっての」
「知らねえ」
「カズヒコ・ハセガワっていやあニッポン通の間じゃあ伝説なんだぜ」
「はあ…そうなのか」
「昨日会ってきたのよ」
「…そう」
「生半可なことやってたんじゃあ、俺たち先細りじゃねえか、そうだろ?」
「…そうなのか?」
「あたぼうじゃねえか」
「…で、そのゴジ…か?何の企画があるんだ?」
「20年来の企画だそうだぜ」
「ふん」
「『レンゴーセキグンパパレンジャー』」
「…」
「俺が赤レンジャーだそうだ」
「…」
「で、お前が黄レンジャー」
「黄色かよ、イヤだぜ!」
「…」
「金にしろよ、ゴールドレンジャーなら乗ってやるよ」
「わかった掛け合ってやるよ」
「ふむ」

かくして彼らは再び金を持ち逃げされるのであった…。

 

第7章 アンダー・サスピション FINAL

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2004年9月某日。とある屋台のおでん屋。
1人の男が暖簾を開けて顔を出した。
「遅いぜ!ベイビー」
いきなり1人の男ががなりたてた。
男は鷹揚に頷くと横の席に腰掛けた。
「場所がわかんなくてよ」
「おかげで竹輪30本喰っちまったじゃんかよ」
「何で竹輪ばっかり30本も喰うんだよ、親爺泣いてるじゃねえか…おう!はんぺん5個とよ、牛蒡天5個…マヨネーズつけてな」
「結局、お前も練物じゃんかよ、しかもマヨネーズだあ?泣けるね」
「ケチャップつけてるお前に言われたくないぜ、なあジーン」
「…」
「どうしたんだよ、急に黙りこくりやがって」
「いや、一時は飛ぶ鳥落とす勢いだった俺たちもよ、最近じゃあめっきり仕事もなくなっちまってさ、しけた屋台で1杯とは…って思うとよ」
「そうだよなあ、今回の仕事だってよ1年前だったら絶対断ってるぜ」
「大体、『ゴジラ』って名前からして気にいらねえ、あの金持ち逃げしたグラサン野郎もゴジラだったっけ」
「ありゃあゴジだよ」
「大丈夫か?今度のリューヘイ・キタムラってのは」
「知らねえ…まあ今回俺たちが金出すわけじゃないからな、ちょこっと物見遊山でアルバイトしに来たようなもんじゃねえか」
「そりゃそうだ。しかしよ、もうちっとマシな役なかったのか?」
「…」
「お前が米人ジャーナリストのジミーで俺が仏人観光客のフランソワだったっけ」
「どっちとも、ちょっと出てきて、すぐゴジラに喰われちまうんだろ…」
「いや、あの後リューヘイからFAXが来てたの見なかったか?ジミーはカマキラスに両手両足をちょん切られて、フランソワはクモンガに糸でグルグル巻きにされて脳味噌チューチュー吸われるそうだ」
「…そっか」
「…」
「何とかならんのか?」
「…大統領まで演った俺たちがよ」
「寂しすぎるぜ」
「…だよな」
「…」
「…」
「よっしゃ…」
「うん?」
「とりあえず、竹輪5本!…何?売り切れ?なめとんのかあ!クソ親爺」

屋台を破壊し尽くして夜の町の雑踏に消えた彼らの行方を知る者は誰もいない。