男の痰壺

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ひとよ

★★★★★ 2019年11月21日(木) TOHOシネマズ梅田4

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展開的に何か見たことないような綾があるわけでもない。

むしろ、母息子の確執に限って言えば、なんやねんやっぱそういうことやんか。

ということなのであるが、それにしても一家ととりまく地域社会の濃密な人間群像が豊穣で一瞬たりとも飽くことがなかった。

兄妹3人が個々の生活においては全員ギリギリの線上をわたっている。

このギリギリ感の醸成が白石和彌監督の得意中の得意なのであって、まあ手馴れたもんです。

そこに、母の帰還というファクターが投入されることで、落ちかけたヤジロベエは均衡を取り戻していく。

 

これは、殺人を犯した女の贖罪とかいった有り勝ちなテーゼは完無視した映画で、家族という鬱陶しくも不可避なコミューンのありがたみを慈しむ映画だ。

そういう意味で、3人の兄妹に現在形の日本映画の先頭ランナーを揃えて完璧なコラボを形成している。キャスティングの醍醐味を久々に味わった。

田中裕子も久々だったが、難役に対してまったく肩の力を抜いて臨んでいる。

 

境界線上で落ちかけている兄妹3人が母の帰還を契機に踏み止まる物語で、取り巻く人々や環境描写は乾いた善意を内包する。徒らに絆なる言葉を標榜する時代を俺は嫌悪するが、4人の役者が関係性の行間まで読み切り醸成する空気にはそれがあったように思える。(cinemascape)

 

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