★★★★ 2022年2月7日(月) テアトル梅田2
まったくお恥ずかしい話ですが、見終わってネットで幾つかの解説読むまで女性が2人1役ってことに気がつきませんでした。いったい俺は何見てるんでしょうか。
まあ、それだけフェルナンド・レイのオタオタ演技に気が入ってたんでしょう。これほど感情移入できる主人公もブニュエル映画では珍しい。寸止め喰らわされた挙句にブチ切れ女を押し倒して強引に服を脱がせたら貞操帯みたいなガードルはいていて結んだ紐解けない。爆笑もんの佳境だが、笑ってるのは俺1人でした。
どうしようもない女に振り回される男の話はジェルミやデ・シーカあたりのイタリア艶笑劇に近い構図なのが意外だった。そこにブニュエル的な不穏なギミックを適宜差し込む手際は練達の趣がある。ネズミがおもちゃ丸出しなのも又良しとしましょう。
女との顛末を疾走する列車のコンパートメントで同乗客に語るという倒叙形式が、悶々とした内容に風を吹き込む。珍しくもない手法だが、ブニュエル=カリエールコンビの手にかかると文学的芳香さえ帯びるようだ。
ぶん投げておいて舌出すようなラストを見てオリヴェイラの「永遠の語らい」が頭に浮かんだ。ブニュエルをリスペクトしてることは間違いないと思うから、あれはこれへの形を変えたオマージュだったんですね、多分。
モノにできると思っても寸止め喰らわされる繰り返しの単線構造艶笑譚だがブニュエルのシュール意匠が薬味のように随所で差し挟まれ味を引き立てる。加えて列車コンパートメント内での叙述形式がもたらす文学的な趣。韜晦趣味のかけらもない自己実現と終。(cinemascape)