男の痰壺

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ソウルの春

★★★ 2024年9月23日(月) Tジョイ梅田5

自国近代史を題材に旺盛に作品を送り出し続ける韓国映画であるが、おかげで余り知らなかった韓国の歴史をお勉強させられます。翻って我が日本で太平洋戦争以降の近現代に於けるポリティカルな題材を取り上げた映画なんてここ10年見たこともありませんな。ええんやろか、こんなんで。

 

「KCIA 南山の部長たち」で描かれた1979年の朴正煕暗殺事件直後から本作は始まる。覇権を握る軍部内で熾烈化する権力闘争と権謀術数。権力欲の権化のような全斗煥は敗色を挽回するため実力行使を画策する。

この前半は素晴らしい。キム・ソンスは喜八「日本のいちばん長い日」を見てインスパイアされたんじゃないかと思わせる多局面が錯綜する緊迫を見事に畳み掛けている。自分を左遷しようとした陸軍参謀を拉致し、それを正当化するために青瓦台に押しかけ大統領にサインを迫るあたり「日本の〜」での玉音盤をめぐるNHKでの攻防が頭を過ぎる。

 

しかし、「アシュラ」では悪VS悪のピカレスクな凌ぎ合いだったものが、ここではチョン・ウソンの首都防衛隊長をヒロイックに仕立て上げなければならなかったようだ。終盤では一気に三文作劇へと堕していく。ラストのトイレで見せるファン・ジョンミンの1人芝居が流石の腹芸なだけに惜しいと思った。

 

本作以降の全斗煥統治下での民主主義への弾圧は「タクシー運転手 約束は海を越えて」(未見です)、「1987、ある闘いの真実」などで描かれていくのです。

 

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