★★★★ 2024年10月12日(土) 大阪ステーションシティシネマ8
J-WALKって聞いても名前を知ってるくらいでした。「何も言えなくて…夏」を改めて聴いてあーこの曲知ってるわとまあ、そんな程度です。その元ボーカルの中村耕一が覚醒剤で検挙されて脱退・引退したってのも知らんかったが、本作は多分、監督の日比遊一がそんな中村に当てて書いた物語なんでしょね。役柄も覚醒剤で挙げられて歌をやめた人気バンドの元ボーカル。中村自身も役の半分くらいは自分、と言っている。そんな男がお務め終えて安アパートを探すとこから映画は始まる。
しばらくは男やもめの日常。求職活動を1日して、部屋に帰ってボーっとする。掃除したり簡単な食事を作って1人食べたり、とまあ「PERFECT DAYS」2番煎じみたいな。
清掃会社に職を得て、たまたまそこの同僚の女の子がアパートの隣に母親と住んでいた。歌の好きな彼女はつらい仕事の帰り道、夢想する。ミュージカル仕立ての夢想シーンが垢抜けませんな。演じるのは遥海、ミュージカルとかで頑張ってはる人らしいです。知りませんでした。
破綻フラグをあちこち立ててほったらかす脚本の粗さも含めてどうもなーとは思うんですが、それでも評価したくなるのは、日比遊一の紡ぐ物語の過剰を廃した平衡感覚で,例えば、清掃会社の同僚や社長とかは中村がヤクやって捕まった有名人とわかっててもしばらくは何も言わない。ずいぶん経ってから、いや実は俺あんたのファンだったよ、とボソッと言ったりする。
かつて中村のバンドをプロモートしていた竹中直人のけんもほろろな態度も良い。世間の評価は簡単には覆りませんよーって戒めである。遥海の歌を聴いてスゲーと思った中村が意を決して竹中のもとを訪れたとき、「どの面下げて来てんだ!お前バンド仲間に謝りに行ったか?帰れ!」あーなかなかのリアリティ。
写真家出身の日比の16ミリのフィルムへの拘りも好ましい。その懐かしい質感がこの小さな暖かい世界に適合する。そういや「エリカ38」も16ミリだったかも。
当然なんだけど中村も遥海も圧倒的に歌が上手い。この点も日本映画のこの手のジャンルのなかではありそで実はあんまりなかった美点だと思います。