★★★★★ 2025年3月8日(土) TOHOシネマズ梅田4

16年の演出ブランクはあるにせよ根岸の「ヴィヨンの妻」は力作だったし、同じ昭和初期の文士もので脚本も田中陽造とあればある程度の期待もしたが、このキャスティングラインナップの薄さに一抹の不安があった。物語の時代から遊離した今でしかスクリーンの中に存在できない若者たちの無惨な映画を幾つも見てきたから。
でも、広瀬すずが思ってもみなかったが良かった。考えてみたらガキだと思ってた彼女も26歳の女盛りなのだ。童顔が災いするところを積んできたキャリアが腰の据わった内実となって女優としての風格さえ帯びている。根岸がベタ褒めするのもさもありなんと思わせる。
中原中也と小林秀雄と大部屋女優・長谷川泰子の3角関係という実在人物を実名で描いたものであり、その辺、太宰がモデルであるにせよ虚構の小説が原作の「ヴィヨンの妻」よりも難易度は高そうなのだが、もはや中也も小林もリアルに感じ取れる観客は存在しない。歴史上の人物なのだ。岡田将生が小林秀雄ってアホなーとの疑念は映画に没入し出すと綺麗さっぱり消えてしまう。
物語は創作・著述に没頭し出すと女なんかにかまってられない男たちの間を、あっち行ったりこっち来たりの内実のない女が2人の元を去る、とまあ煎じ詰めれば身も蓋ない話なのだが、陽造・根岸の素材をしゃぶり尽くすような執念が原石を磨き上げたような光沢を付与している。
加えて美術と衣裳も近年の日本映画としては頭抜けたホンモノ感を帯びており、50年代の日本映画黄金期の尻尾に肉薄したと言える出来だ。そんな中で下手すれば狙ったあざとさの軽佻だけが浮きそうなローラースケート場なんかも見事に世界に適合している。
物語は創作に没頭し出すと構ってくれぬ男たちの間を内実なき女が右往左往と煎じ詰めれば身も蓋ない話だが、陽造・根岸の素材をしゃぶり尽くすような執念が原石を磨き上げたような光沢を付与している。加えて美術と衣裳も近年では頭抜けたホンモノ感。