男の痰壺

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氷壁の女

★★★★ 2019年1月6日(日) プラネットスタジオプラスワン
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旅は、それまでの自分の在り方を見直すきっかけとなる。
迷いが顕在化し、新たな生き方の啓示を受けるかもしれない。
旅先が、人間の卑小さをクローズアップするような大自然であれば、それは劇的な効果となるだろう。
 
そういった、モチーフはデヴィッド・リーンが得意としたものであって、
俺は、本作を見ながら、リーンの遺作「インドへの道」を想起していた。
奇しくも、本作がジンネマンの遺作であることも符号するのだ。
 
ただ、リーンの作品が個人のドラマと並列して民族間の相克が取り上げられるのに比して、本作は概ね個人レベルの葛藤に止まる。
そこが弱いという風には思わないが、ならば、より内省的に深耕するわけでもない。
やはり、そこがジンネマンの限界なのだろう。
 
それでも、これは、そういった文学的なモチーフに挑んで、健闘していると思う。
ロマンティシズムの欠片くらいは感じられた。
まあ、ジェームズ・アイヴォリーとかが撮ってたならと思わないでもないが。
 
それまでの日常下で心の底に潜んでた屈託が旅に出て露出するというリーン的モチーフを老匠らしい婉曲で描いてロマンと品性がある。ただスペクタクルな醍醐味があるかというと疑問でロケ効果を生かし切る描法は終ぞ覗えない。寧ろ無声映画のように古典的。(cinemascape)