★★★★ 2020年3月20日(金) テアトル梅田2
【ネタバレです】
冒頭で示唆された不吉な予兆は、始まってしばらくすると、この2時間にわたるパリジェンヌのコンテンポラリーそぞろ歩きから拭い去られる。
それが狙ったものか、演出の甘さなのかは知る由もない。懊悩や焦燥といった感情の表出が希薄なのだ。
俺は、てっきり最後には、あれは間違いでございました、心配して損しちゃった!チャンチャンとなるんやろと思い込んでました。
ところが、医者から言われる。諦めるのは早い、放射線治療で様子みましょうって。
彼女は本当に癌なのであった。
その瞬間、2時間見てきた世界が転倒した。
女性マネージャーと2人で→1人で→女友達と2人で→1人でといったふうに相手を替えつつ展開していく彷徨が、終ぞ彼女の慰めにはならなかったし、現実と対峙するきっかけにもならなかった。
でも、偶然に知り合った見知らぬ軍隊帰りの男が医者との面会に同道してくれる。
凄いニヒリズムと思う一方で、事実を受け入れ新たな運命に対峙する縁でもあった。
無言で見つめ合う2人の表情で締められるラストショットは微かな希望を提示している。
音楽を担当したルグランの作曲家役での出演、ゴダールとアンナ・カリーナの劇中劇での客演も映画史的興趣を掻き立てるが、ドキュメンタリズムを縦横に錯綜させるモノクロ撮影と先鋭的な時間テロップを操るヴァルダの予想以上の先駆性こそ驚きだ。
パリの街を移動し続けながら人との同道と離反を繰り返す彷徨は分単位に細分化され生態観察のような冷徹な筆致で来るべき時に向かうが、何気ない邂逅が世界を反転させ不安に充ちた予感は立ち向かえる障壁に瞬時に変わる。畳み掛けるような余りに鮮やかな終局。(cinemascape)