★★★★ 2021年8月16日(月) MOVIXあまがさき1
災厄によって撮影が中断し主演俳優が交代するという経緯が、驚くほど「東京家族」と相似である。そういう、謂わゆるケチがついた成り行きは、得てして創作者からエネルギーを奪い「もうやーんぴ」となりがちなのだ。山田洋次は偉いと思います。もう90歳近いのに。
まあ、黄金期の撮影所を舞台にした物語として「キネマの天地」よりはまし程度の出来だとは思うんですけど、俺自身の加齢のせいでしょうか、煌めいてた青春の日々への郷愁(書いてて恥ずかしいですけど)みたいなのがヤケに惻々と身に染みてきてたまらないものがありました。
その煌めきを煌かせるためには、現在がくすんでないといけないわけですが、ジュリーはじめ宮本信子、小林稔侍、寺島しのぶ他みんなみごとにくすんでいる。未来への展望もなく生きてるだけといった体です。
そのサディスティックなまでの呵責の無さは山田の時代への諦観なのか。停滞がちな物語に活力を付与するためか、やたら走ってる電車を背景に写し込むのが気が利いてると思いました。
主演女優のアップショットの瞳の中に助監督だった俺が写っている、と現在の主人公が言う。
らしからぬ蠱惑的なプロットで、シネフィル心をくすぐるイメージだが、現在から過去への繋ぎに置かれたそれは、ボヨヨーンと画面が揺らめいてみたいな、あーやっぱり山田洋次やーなトホホ処理で終わるのがご愛嬌だ。
そこから始まる過去挿話は、可もなし不可もなし程度で、やはり、映画黄金期を表現するには清水宏(リリー・フランキー)と原節子(北川景子)だけでは駒が足りない。小ぢんまり感が拭えません。
北川景子が巷間好評価ですが、彼女のファンとしてはこんなのフツーです。全然ほんとのポテンシャルは出し切ってませんな。
ああ、俺が監督して演技指導じっくりしてあげたい、と20代の煌めいてた俺なら言うでしょう、とクスみきった今の俺は遠くを見つめながら言うのだが、煌めいてたことなんかあんのか?俺。
呑んだくれのダメ男の女房として清掃パートで日を送る宮本に青春時代の煌めく芽郁ちゃんが重なって噛み締める狂おしいまでの惜春。日々を生きるのにやっとこさの俺たちが思い返すこともない煌めきを慎ましやかに遠巻きに山田は提示してくれる。(cinemascape)