★★★★ 2025年1月16日(木) テアトル梅田4

失われた名画が田舎町の夜勤工員の家から出てくる。という名画をめぐる歴史の虚実と、出てきた名画をめぐる権利関係の権謀術数、という大方に想定されるお話も相当に練り込んであるけど、それ以上にキャラの造形の一筋縄で行かない点に唸らされた。監督のパスカル・ポニゼールはリヴェットの後期作品の脚本家だそうで、ああ、なるほど彼の脚本を得てリヴェットは変わったんやな、と思わせます。
主人公はオークション会社の社員アンドレだが、研修生である若いオロールという女性が付き従うという発端で、とにかくアンドレとオロールは細かな諍いを繰り返す。もっと上手いことやれやと思うのだが、性に合わないってのがどうしてもあって、そういう微妙な軋轢は関係の破綻に向かうしかない。
このオロールの底知れない素性の複雑さは、父との関係や、オークション業界への造詣の深さなど、ミステリアスに増幅していく。
見終わったあと、しばし考えてもようわからん部分があったんだが、たまたまシネスケの新年会があってSCN氏から説明を聞き納得した次第です。
アンドレは結局このオロールに窮地を救われる。人間関係のギスギスは氷解してめでたしめでたしとなり良かったねである。加えて絵の所有者であった青年をめぐる挿話も冴えている。逆転のオークションが成功してユダヤ財閥の創始者が青年を迎える件、本当の人間の度量が最高の結実をもたらす。財閥の長も工員の青年も清々しく誠実である。
2500万ユーロって40億円らしい。青年は4億円を手にしたわけだ。だけど彼はそのまま夜勤工員を続ける。まあ、俺でもそうするかも。って考えるだけ虚しいけど。
歴史の秘話を紐解くよりも、現在進行形の人間の確執を描く事に重きを置いている。それは、高潔な徳の実践であるし,信頼の回復による関係性の修復であるし、日和らないポリシーの貫徹。悪目に落ちた流れが一発逆転する展開は爽快だがそれ以上に多幸感がある。