男の痰壺

映画の感想中心です

海の上のピアニスト

★★★ 2024年3月27日(水) 大阪ステーションシティシネマ

俺はトルナトーレの「ニュー・シネマ・パラダイス」の情に浸るだけの作風が嫌いな人間なので本作も敬遠してたのだが,今回再映されるのを機にどんなもんやろかと見てみました。で、やっぱこのおっさんダメや思った。

 

欧州航路をアメリカと行き来する豪華客船に遺棄された赤ちゃんが船内で育てられ長じてピアニストになった、が彼は死ぬまで船を降りなかった。と極めて寓意性に富んだ設定である。

でも、トルナトーレはその設定を本気で突き詰める気はないようで、彼が誰にピアノ演奏を教わったのかとか、どうやって衣食住を適えたのかとか全部スルーする。ホラ話は細部のリアルによって担保されるのになーと思う。

 

後半、彼は乗客の移民の女の子に一目惚れして彼女が降りたニューヨークに降りようかという気になる。だけどタラップの途中で尻込みして船内に戻る。果ての見えない世界が自分の概念を超えているのだそうだ。オリジナルに構築した世界観に囚われて自己肯定し厳しい一歩を外に向かって踏み出せないのは、俗に言う引きこもりと一緒やん。そんな彼が内世界に収縮していき迎える末期にはロマンティシズムの欠片もないのである。

 

そんな話の語り部としてトランペット奏者のおっさんがいる。「ニューシネマ・パラダイス」の長じて映画監督になる少年のポジションだが、そんな彼が楽器の古売商に物語るという体裁はまあイケてると思った。★1つ加点した次第です。

 

寓話として興味深い設定ではあるが「世界の果てが見えない」という理由づけをトルナトーレがどこまで信じて説得性を持たせ得たのか疑問。批評性もなく只管に情に浸って哀感を垂れ流す気色悪さだが、語り部の叙述体が魅力的で平衡感覚を辛うじて付与した。(cinemascape)

 

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