男の痰壺

映画の感想中心です

「桐島です」

★★★★ 2025年7月9日(水) なんばパークスシネマ11

あさま山荘事件」が俺が小5、「三菱重工爆破事件」が中1の時だからうっすら覚えてるだけで学生運動とは無縁世代です。大学1年の時、クラブの夏合宿の討議で、秋の学祭で学生会館を占拠してオールナイト上映を貫徹する、とか先輩方が勇ましく侃侃諤諤やってるときも、何の為に何に抗議してそれやるのか、?でした。ぶっちゃけ乗り遅れた世代の憧れみたいなものの残滓が雰囲気として辛うじて残っていた時代。

 

高橋伴明は俺より10歳以上上だから、当時の空気の影響をモロに受けたでしょう。だから桐島に対する思いは共感しかない。しかし、半世紀の時が流れ、歳もとってテロリズムに対する見方も変わってくる。爆弾テロの後、犠牲者を何人も出したことに対する疑念を桐島が口にするのは、伴明の創作かどうか知りませんけど。

 

【以下ネタバレです】

とにかく、本作は前半がしみじみ良い。指名手配になって名前を変えて小さな土建会社に職を得る。履歴書も出さず即採用、当然社保なんかもないだろう、それでも寮としてアパートの1部屋を与えられ、それから50年間働いて暮らしてきた。朝のインスタントコーヒーが唯一の贅沢。覚醒剤常用の同僚、コソ泥稼業の隣室の住人とかが、彼の置かれた環境の遣る瀬無さを弥増させる。

何年かが経って、ライブスナックで女性歌手が歌う「時代おくれ」を聞いて、自分の身の上が同期して堪えきれなくなる。その時、俺も映画の中の桐島と同期して堪えきれなくなった。20代の頃、社会のシステムからこぼれ落ちかけたことが何度もあったから。

 

しかし、後半に至り髪も白くなった桐島が、安倍による自衛隊のPKO派遣の会見をTVで見て激昂し物を投げつけTVをぶっ壊すシーンが出てくる。ここで、激しく違和感を感じた。何十年もそれこそ「目立たぬように」を旨としてき、「時代おくれ」をギター練習して弾き歌うことに慰めを感じてきた男の心奥に「闘争」の熾火が燻り続けていたってことなんだろうが、燻り続けさせる必要はあったのか?消えてしまっていたでいいのではないか。序盤の一連のテロ闘争に於ける桐島の立ち位置は、どっちかというと巻き込まれている的な受け身ポジションに見えただけに。

 

長い逃亡生活の末に癌で死ぬ。そう分かって自分の素性を明かした。それ以上でも以下でもなかったのだと思うし、それでも充分に見るものの胸を抉る筈であった。伴明の要らぬ自己弁明の証左が映画を純なものから遠ざけてしまった。

 

とは言っても、先述のとおり前半の良さはしみじみと俺の胸を突き刺したし、毎熊克哉の圧倒的没入感も見ものであった。★4とした理由です。

 

手配され名を変え土建屋に職を得て寮の1室で爾来50年。シャブ中の同僚やコソ泥の隣室の住人。置かれた環境の遣る瀬無さ弥増す。酒場で聴いた「時代おくれ」の胸打つ佳境。それだけに後半「闘争」の熾火が燻り続けてたって描写は要らぬ伴明の自己弁明。

 

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