男の痰壺

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エルネスト

★★★★ 2018年1月20日(土) 新世界国際劇場
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おそらく、企画段階でのキーワードは「日系人」と「ゲバラ」なのだろう。
しかし、そのキーワードは阪本の手によってきれいさっぱり葬り去られる。
 
フレディという日経2世の主人公は「日本人」というアイデンテティは欠片もない。
少なくとも映画内では、そのように描かれる。
彼は日本のことを語らないし(唯一彼女との会話で父親の来歴を話すが)、なんの思いも持ってない。
周囲もボリビア人としてしか接しない。
 
彼はゲバラボリビア派兵に身を投じるのだが、ゲバラとの接点は1.2回声をかけられた程度。
偶然、ゲバラと同じエルネストというファーストネームを与えられるがゲバラからもらったわけでもない。
 
実在人物だから下手な脚色もできぬこともあるが、多分そういう「受け」要素に阪本は関心がなかったのだ。
虚飾の欠片もない物語しか、フレディ・前村・ウルタードという25歳で人生を終えた男を描くに能わない。
静謐な信念のようなものが映画を貫徹している。
 
昔、名もない真面目一辺倒の男が世界のどこかで25歳で犬死にした。
こういう物語を紡いでみせる男は信頼できると思う。
 
日系人アイデンティティや革命家との歴史上のシンクロに意味は無いとばかりに只管に真面目に生き真摯に人を思い遣り挙句犬死にした若い命に寄せる共感。さすれば冒頭のゲバラ訪日は幾千万もの同魂に捧げる思いとなり映画を静謐に敷衍する。何の阿りもない。(cinemascape)