男の痰壺

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ゴダールの探偵

★★★ 2023年7月13日(木) シネヌーヴォ

探偵つーても、ゴダールですからその手のジャンル映画の醍醐味があるわけもない。冒頭、向かいのアパートからホテルの入り口を盗撮するシーンでまさかと思ったが、見事に空振りだった。

 

ホテルを舞台に4組の男と女が思惑を持って錯綜する。と言えば聞こえがいいがドラマトゥルギーの欠片もない。ひたすらに「貸した金返せー」と言ってることしか頭に残らない。でも俺も金返せーとは思わない。なんつーってもゴダールやから仕方ないやんってことです。本人の企画でもないみたいやし。

 

80年代手前で商業映画に帰還したゴダールのフィルモグラフィ第3期もフランスを軸に英米の資本を取り込んだ80年代と90年代以降の生まれ故郷スイスに拠点を移してからとに分けていいだろう。本作はそういう意味でフランスで制作した「勝手にしやがれ」から「ウィークエンド」に至る最盛期の作品群のテイストを辛うじて残した最後の作品と言えるかもしれない。まあ、あくまでテイストだけですが。アグファ社のネオン看板を意味なくやたらコラージュするあたりとか。

 

パイロットとその妻の挿話が一番オモロい。冷え切った関係に対して取り繕う夫と冷徹な妻。ナタリー・バイのこと印象に留めたことは今まで無かったが本作の中で際立って魅力的であった。

 

冒頭まさかと思わされるジャンル映画の醍醐味が当然あるわけもなくホテルを舞台にした群像劇のドラマトゥルギーは雲散する。それでもゴダールやから仕方ないが通る人徳であろう。アグファのネオンサインと記号化する「金返せ」は仏時代の残滓を思わせる。(cinemascape)

 

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