★★★ 2019年11月5日(火) 梅田ブルク7シアター2
鶴瓶の演技を予告編で見てうんざり感が起こり見る気もなかった映画なのだが。
まあ、小松菜奈が唯一のモチベーションとなって足をはこんだ。
監督の平山秀幸も「エヴェレスト」で、もうあかんわと思ったが、「愛を乞う人」や「OUT」の頃は日本映画のど真ん中の牽引者であったではないかと自分に言い聞かせてみたりもした。
でも、やっぱ凡庸な映画でした。
【以下ネタバレです】
鶴瓶が演じる男は女房の浮気現場を見て逆上し、女房を相手の男ともどもぶち殺し、ぼけて寝たきりの老母も先行きを慮って絞殺したという過去を持つ。
この件が、自分を何十年も責め苛み、生きさらばえることに忸怩たる思いを持ち続けることにいまいち納得性がない。
ように思えるのだ。
だって、自分のやったことに後悔があっての忸怩たる思いであって、人非人な異常犯罪が横行する現代においては、あまりに真っ当な動機で、何一つ時代を抉っていない。
それと、絞死刑が執行されたが何故か蘇生したという余りに奇異な設定も設定だけで何一つ意味をもっていない。
これでは、彼を閉鎖病院に幽閉するための、物語上の方便だとしか見えない。
為にする感がぬぐえないのだ。
ど真ん中の話が弱いもんだから、並置される綾野剛や小松菜奈のエピソードがそれなりに良いのに全体の印象は生ぬるいものにならざるを得ない。
閉鎖病棟ってことばを初めて知ったが、昔でいうところの精神病院で、そこの患者たちが多く出てくる。彼ら彼女らは、平素は穏やかに自分の世界で生活しているが、ちょっとしたストレスで狂乱に陥ってしまう。
そういったリアルな現実は、たとえば「まぼろしの市街戦」のような頭の狂った人こそが正常だったというファンタジーに仮託されたそれよりは現実に踏み込んでいると思えました。
鶴瓶の事件が平明で深みがないし絞死刑の奇異な顛末も展開への寄与度ゼロでは物語が収斂する基軸として弱すぎる。介護ネタがダブるのもどうか。病棟内の患者たちを含め正直凡庸だが、終盤の菜奈の彷徨と絶望の淵からの再生には少なからず打たれた。(cinemascape)