男の痰壺

映画の感想中心です

おもひでのしずく (2006年7月25日 (火))

※おもひでのしずく:以前書いたYahoo日記の再掲載です。

 

マクガフィン

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「今日こそは何とかしましょうよ。時間がないんですわ、時間が」
「おう!何とかしようぜ!」

かれこれ20数年前、俺は先輩とシナリオを書こうとしていた。
ところが、何回も先輩の家に行って紙とペンをもって向き合うのだが、何故か四方山話に明け暮れ、挙句には酒を飲んで滅茶苦茶に酔っ払って終わってしまうのであった。

「宝探しだよな」
「ええ…宝探しの話でした」
「で、宝って何やった」
「知りませんがな、考えとく言ったんちゃいますん」
「…」
「…」
「…マクガフィンや!」
「えっ…」
マクガフィン
「…マクガフィンですか」

当時、「ヒッチコックトリュフォー 映画術」というクソ分厚い本が売り出されていて、何かそれを買わないとあかんみたいな雰囲気があったのだ。
そこに確か「マクガフィン」という言葉が出てきた。

「解決したがな、これで」
「で、どうしますん」
「そやな、こういうイメージ考えたんやけどな」
「はい」
「人口衛星で主人公たちは常に監視されてんねん」
「おお…いいですね!」
「広角から望遠に何ショットか切り替えた荒れた映像をインサートするんや!」
「はい!」
「かっこええんちゃうん」
「めっちゃかっこええです!で、どういう組織に監視されてることにします?」
「そうやな、マクガフィンでいこう」
「…」

「こういうシーンもあるで。高速道路のパーキングエリアで主人公たちが休憩しとるんや」
「ええ」
「でな、缶コーヒーか何か飲みながら一息ついとるとな…」
「ええ」
「誰かが何かに気づく」
「…」
「遠くの高速道路の路側帯にな、何かがあるねん」
「はあ」
「何か不安を煽るようなもんや」
「イメージはいいですね、で何にします」
「うん…」
「…」
マクガフィンや」

「主人公の少女な、実は超能力もっとんねん」
「おお!」
「でな、ドライブウェイでみんなが休憩しとるときにな、車の中に1人残った少女がな、外で騒いどる連中のこと、じーっと見とるわけよ、で、瞬間ぞぞーっとな、それが起こるわけよ」
「…」
「…」
「何が」
「…マクガフィンやがな」

俺はその日を最後に先輩の家を訪れることはなかった。
で、学生時代の最後に撮った8ミリ映画はマクガフィンだらけのものになってしまった。

フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』より
マクガフィン(MacGuffin, McGuffin) とは、映画(スリラー・サスペンス物に多い)などの作劇上で、登場人物への動機付けや話を進めるために用いられる、仕掛けのひとつである。 作品の登場人物は非常に重要なものだと考えているにも関わらず、観客にはほとんど説明されなかったり、説明されたとしても価値が疑わしいような「なにか」のことである。マクガフィンという言葉はアルフレッド・ヒッチコックによって考案されたとされる。

最近「MiⅢ」を見て思い出した青い日々のことである。