男の痰壺

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海辺の彼女たち

★★★★ 2021年5月22日(土) シネヌーヴォX

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外国人技能実習生の過酷な現実を描き、それを取り巻く日本という老齢社会が陥ってる労働需給のアンバランスを穿つ、

みたいな社会システムへの言及は中盤以降に後方に退き、別のテーマが浮上する。

そういう意味で本年公開の「ノマドランド」が俺には想起されるのであった。

 

3人のベトナム人女性が当初斡旋された職場環境の劣悪に耐えかねてばっくれるとこから映画は始まり、仲介屋から紹介された漁村に赴く。

水揚げされた魚を洗ったり運んだりの仕事だが、少なくとも3人は仕事に前向きには見えない。よろついて道にぶちまけ砂まみれの魚を拾って箱に入れトラックに積もうとして「洗ってこいよ」と叱責される。

監督の藤元明緒技能実習生から受け取ったSOSメールが制作のきっかけらしいが、決して単視眼に日本のシステム=悪、技能実習生=善の情緒に陥らない醒めた現状認識がいい。

寧ろ彼女たちを搾取するのは周旋屋や健康保険証の偽造屋といった同胞たちである。

 

考えてみれば、こういった労働の底辺で働く人たちは外国人ばかりではなく、日本人の何割かもそうなので、過酷な労働=技能実習生の問題ではあるが彼ら彼女らだけの問題とも言い難いのであります。

 

映画は中盤から大きくドライブしていく。

3人のうちの1人にクローズアップしていき他の2人は後方に退く。

描かれるのは普遍的といってもいい女性の生きづらさで、粉雪が舞う住宅街を病院を探して歩く彼女を追った長回しは全篇の白眉だと思う。

ダルデンヌ兄弟に例えるコメントを読んだが同意したい。

 

日本人雇用者と搾取される技能実習生というマスコミライクな構図でなく、鯔の詰まり外国人コミュニティの同胞にも喰い物にされるというアンダーグランドなリアル。中盤以降、映画は溝口的に女の生き辛さにドライブする。雪舞う中の長回しの彷徨は白眉。(cinemascape)

 

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