男の痰壺

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コンクリート・ユートピア

★★★ 2024年1月6日(土) MOVIXあまがさき10

大震災で壊滅した都市で唯一倒壊を免れたマンションとそこの住人たちが、瓦礫の山に投げ出されたその他の人々との間に軋轢を生んでいく。幸運と不運、持てる者と持たざる者。多くの2項対立がどのような人の醜い有り様を曝け出させるのかのシュミレーション。とまあ、好意的に言えばそうなんだが、作劇的にとっ散らかってなんだかなーです。

 

局地的と思われる震災のはずが、国家とマスメディアは完全に無いものになっている。まるで核戦争で世界が壊滅したみたい。単純に変なのだが、そこに目を瞑っても、シュミレートする筈の2項対立がほとんどキャプチャーされない。内と外の軋轢はほとんどなく、当然あるだろう内の中でのヒエラルキーの発生や権力闘争もない。あるのはイ・ビョンホンの演じる男の個人的事情で、それはそれで気の毒なのだが、物語が描くべきものとは遊離している。何を描きたいのかが絞りきれないままに投げ出されたみたい。

 

極限状態では視野は狭窄される。圧倒的多数のコモンセンスに疑義を差し挟む発想は封殺される。しかし、その殻から出ると全く違う世界が当たり前のように在る。この映画のラストはそういったことを鮮やかに示している。モヤモヤは少し晴れたが、じゃあ、このラストに収斂するような作劇が何で出来なかったのかの思いは拭えないのです。

 

人々のエゴイズムとビョンホンの来歴にあまり連関がないのでどっちしたいねんという話になる。済し崩しに終局はきれいにまとめてみせたが、それ故に閉塞状況がもたらす視野狭窄に特化した作劇が欲しかったと思わせる。『ミスト』の強度とまで言わないが。(cinemascape)

 

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