★★★★ 2024年7月10日(水) 大阪ステーションシティシネマ7

女流作家の家に間借りした若夫婦がとんでもない目にあう、って梗概を見て「ミザリー」みたいなのかと思ってましたが全然違っていた。「たたり」の原作者シャーリー・ジャクソンの伝記をベースにしており、その彼女の作品からスティーヴン・キングが少なからぬ影響を受けたと聞けばそういう予断を待っても仕方ないです。
シャーリイは変人だが変質者ではない。作家特有の洞察力をもった観察者であり、間借りすることになった夫婦の妻ローズに関心を持つ。新作の執筆に筆が乗らないシャーリイを描いているように見えて、本作の裏の主人公はローズであるように思える。
根底に横たわるのは抑え難いミソジニーであり、当然のように嫁ほったらかして浮気しまくるクソ男どもの抑圧からの女たちの解放を主眼とする。そんな監督のジョセフィン・デッカーに睨まれたら男どもは石と化するしかないのである。いっそ清々しい。
特筆すべきはシャーリイの夫で大学教授のスタンリーの造形であり、単なる俗物かと思えば腹の中で剣呑なことを考えていて、それがシャーリィと共振するという、言わば似た者夫婦の同志感。妻の著述の一番の理解者でもある。若夫婦はこの怪物たちの手のひらで転がされて虚構の幸せを剥ぎ取られていくのだ。
執筆に苦する女流作家を興味津々で見る若妻が逆に観察されていたという構図が明らかになった時に世界は反転して女たちの苦難の時代は終わりを告げる。根底基盤のミソジニーの言わずもがなな境界を打ち破る終局の教授の存在感。人生って呉越同舟の理を顕わす。