男の痰壺

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民衆の敵

★★★ 2018年10月6日(土)  プラネットスタジオプラスワン
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開巻すぐ、写真つきで登場人物がクレジットされるのだが、ちょっと珍しい。
しかし、それでもどうやろか、これはジャンルのオリジナルではあるんだろうが矢張り単線構造の物足りなさは否めないように思う。
 
突出するのはキャグニー。
それに尽きるといっていいだろう。
 
序盤で描かれる少年時代。
主人公のトム少年が女の子に悪さするくだりだが、やめようとと躊躇するポン友マットの諫めも無視。
ローラースケートで遊ぶ少女を道に這わせた紐に引っ掛けて転ばそうとする。
まあありがちって言えばありがち。
 
羽振りをきかせてきた青年時代。
クラブに入ってきたトムとマット。
マットはすぐさま女をナンパしてダンス。
トムは残ったもうひとりの連れの女の席へ行き彼女の耳元で何か囁く。
怪訝な表情の女。
何を囁いたかしらんが引っ掛かるシーン。
 
後半、雲行きが怪しくなってきた時代。
アジトから出てきたトムとマットは待ち伏せた敵にマシンガンで急襲される。
トムは逃げ延びたがマットは哀れ蜂の巣。
物陰からそれを見たトムは何故だか笑みを浮かべた。
なんで笑み?という疑念もキャグニーの強烈さにぶっ飛ぶ。
ちょっとこれは「第三の男」のオースン・ウェルズ初出シーンに匹敵する。
 
正直、見てる間、これらのシーンをそこまで意識的に見てたわけでもないのだが…。
 
映画が終わり出よかと立ち上がりかけたとき前の席の女性から声をかけられた。
「○○君?」と還暦間近い俺様だが、女性から君づけで呼ばれると心は20代に舞い戻るのであった。
40数年ぶりに再会したMさんとT氏を交えて少し映画について話した。
そこで、2人が「あれって同性愛のニュアンス入ってるよねと」話すのを聞いていて俺は腑に落ち焦った。
しかし、そんなこと素振りも出さず、さも当然のように深~く頷くのであった。
 
映画の多義性を物語るエピソードである。
 
オリジナルに言っても詮無いが拡散する魅力的な細部や挿話に欠ける破滅譚。だが常道を随所で逸脱するキャグニーの歪さが並外れて悪魔的。それは理解不能の疑義さえ無理くり抑え込む。ポン友の死に笑むアンビバレンスは真正面ぶっ倒れとともに伝説の領域。(cinemascape)