★★★ 2024年5月22日(水) TOHOシネマズ梅田7

原作がどう捌いてたのか知らないけど、あれやこれや盛りすぎで焦点が定まらない。定まらない上にそんなだから肝心なところに充分に尺を割けず描ききれてないと感じた。
【以下ネタバレです】
医療介護施設で何者かによって人工心肺装置が外され患者が死ぬ事件が発生。福士蒼汰の若手刑事は松本まりかの介護士を疑う一方で彼女のエロオーラにやられてしまう。とまあ、刑事と容疑者のただならぬ関係といえば「氷の微笑」から最近の「別れる決心」までいっぱいあるんですが、前述のように他の要因に尺を割くために、2人の心の揺らぎの描写が淡白で、これでわかるやろの作り手の施す叙述が全然わからず、ましてや普通じゃない変態なわけですから尚更です。福士のサディスティックな眼線も、まりかの壇蜜ばりのエロスも相当なのに勿体ないなあと。
この2人の関係が縦軸だとすると、横軸は①滋賀の事案をモデルにした冤罪事件、②刑事たちのトラウマとなった薬害不起訴事件、③大戦中の731部隊にまつわる少年少女殺人事件、であるが、それらは2人の話と直截には連関しない。結論言っちゃいますけど、まりかは犯人ちゃうんで、言うなら日本近代に於けるアンダーグラウンドな黒歴史のクロニクルの横で、変態男女がイチャイチャしてるだけになる。
まあ、アルトマンやPTAなみの諧謔の俯瞰史観があればそれはそれでいいのかもしれないが、事象の解体と再構築がある意味生真面目すぎるんだと思います。意欲的作品だとは思いますが。
再審無罪が確定した実際の滋賀の事件の取り調べがかなり克明に描かれる。「犯人じゃないんじゃないすか」と言う福士に対して浅野の先輩刑事は「上がその線で行く言うてんのやからごちゃごちゃ言うな」と。ここまで露骨やったのか知りませんが、現実とはそんなもんかも知れません。
一方で、財前直美の被疑者が同僚の松本に愚痴るシーンがある。「患者は私ら看護助手のことバカにして全然言うこと聞いてくれへん、せやのに若い看護師が言うたら一発で聞くねんからな。」これは多くの病院で起こってる現実だろう。そういうクソ老人がどんどん増えていく時代に差し掛かっている。俺は何度も大部屋に入院してるのでそういう現実を何度も目にしている。そういうときマジで殺意を覚えますわ。
これからの介護する・されるの人的不均衡はもはや避けられない時代である。本作の感想から外れますが、そっちのテーマも取り上げるべき題材だと思います。
近世から現代に至る黒歴史が今の世の生業に拭い難い怨讐をもたらすというモチーフと男と女の変態愛欲が分離して船頭多くして船沈没の有り様。エロスとサディズムの発露、個々の問題提議の真摯など見るべきは多いが。にしてもまりかの色気は只事じゃない。