★★★★ 2024年12月1日(日) MOVIXあまがさき1
入れ子細工の叙法がこれでもかと弄される。結果、時空を横断する物語が錯綜し一大迷宮が現出する。アレクセイ・ゲルマンの「フルスタリョフ、車を!」やキリル・セレブレンニコフの「インフル病みのペトロフ家」やデヴィッド・リンチ「インランド・エンパイア」なんかのカオスを想起させるのだが、結局ぜーんぶ妄想でしたの帰結はブラックホールのように世界を飲み込んで収縮させてしまう。そのへんが不満であった。
・雨のバス停での情欲
・商店会PR紙の掲載勧誘
・子供の脳髄液の密売
・轢き逃げされた女への欲情
この4つが、つげ義春原作から引用されたエピソードらしいが、ここにオリジナルの日中戦争の挿話が加わる。片山はインスパイアされた映画として「ジェイコブス・ラダー」と「フルメタル・ジャケット」を挙げているが何分俺は両方未見です。しかし、どうなんやろか、台湾のロケハンから着想が広がったというそれが、つげの原作世界と有機的な連関があったのかは解らない。現場でもどんどんシナリオを変えていく人らしいので勢い余っての世界観に観客は振り回されてるきらいもある。振り回されてもいいんだけど、今ひとつ何かが足りない気がする。
1ショットで延々と日本軍が中国の村を蹂躙する様が描かれるが、例えば火炎放射器で女子供を焼き殺す、命乞いする村民を串刺しにする、手榴弾持った子供に自爆されてバラバラに砕ける、とか盛り過ぎくらいに盛ってもよかったのではないか。「ジョン・ウイック」や「キングスメン」なんかの殺戮の長回しが普遍化する時代である。
原作由来のパートでは、冒頭のバス停のエピソードがやはり頭抜けている。これを最初にもってきたおかげで期待値は高止まりし続ける。展開の一筋縄にいかない食えなさもボルテージを担保し続ける。片山慎三の我執がゲル状で叩きつけられた怪作だとは思います。